題詠100首選歌集(その10)

選歌集・その10


007:別(77〜101)
(やや)「別れる」からはじめる占いアカシアの葉っぱ選びはいつも偶数
(水風抱月)いつぞやの海へ結んで来たのだろう ぼくには見えぬ離別のけむり
011:習(52〜76)
(津野桂)せんせいがいわないことばをかきうつす学習帳の終わりのページ
(五十嵐きよみ)ケルビーノ自身が誰より知っている習わなくても恋はできると
(稲生あきら)習慣が人をつくるということにやっと気づいた三度目の春
(橋田 蕗)六十の手習いにして父書きし「遊仙」いまにもとびだすごとし
043:慣(〜26)
(横雲)眠れない夜は涙を滲ませてそっと撫でてる慣れたる記憶
(美穂)新しい靴を慣らしているうちに桜前線通過して行く
044:日本(〜25)
(シュンイチ)「自分史」もまだ描けない少年が受験のために学ぶ「日本史」
045:喋(〜26)
(みずき)お喋りの輪へ降り注ぐ春光の外れに咲きて真白なる薔薇
(砂乃)携帯を操る合間のお喋りは誰もがうつむき顔を見ぬまま
(美穂)赤ん坊は発声練習おこたらずお喋りする日を夢見て笑う
046:間(〜25)
(紫苑)ひとの気をふくまぬ風のしんしんと身を浸しゆく夜と朝の間(あひ)
(はこべ)二上の雄岳雌岳の間に落ちて夕陽コトリと眠りにいりき
(有櫛由之)ポワンカレつづきの予想つぎつぎとはずれはずれて 束の間の雪
(船坂真桜)「では」の後コンマ未満の間が置かれ決まり文句はあまりに重く
048:アルプス(〜25)
(みずき)アルプスを覆ふ氷雨へ消えさうな姿の生れて虹の懸かりぬ
(横雲)アルプスの父と呼ばるるウェストンの眼に賑わえる山の初夏(はつなつ)
(周凍)アルプスの雪をみがける月かげをまとひて妹は黄泉路ゆくらし
049:括(〜25)
(みずき)独裁と自由それぞれ括弧して憎悪の図式思ふ春の日
(砂乃)職場では括弧付きでも主任なら苦情受付矢面に立つ
(こすぎ)みな同じ死亡届に括られて書類の中に埋もれた想い
(船坂真桜)回覧のバインダーにて括られしチラシは春を含みて重く
(美穂)しっかりと括って玄関先に出す古新聞も執着心も
050:互(〜25)
(西村湯呑)お互いの短所をあげつらうよりもケーキ買ってきたから食べようよ
(みずき)絶望と夢が交互に泛ぶ闇 信じて深き愛が哀しい
055:駄目(〜25)
(西村湯呑)駄目駄目と叱ってもニャンと鳴くばかり「駄目」ってキミの名前じゃないよ
(浅草大将)少女への一歩を踏めりをさな児は赤き鼻緒の足駄目ばゆく
〈美穂)母として自分を駄目だと思うほど幼子いよいよすがりつきくる