題詠100首選歌集(その11)

       選歌集・その11


014:更(52〜76)
(守宮やもり)いかがです更にお安くいたします婚期来てますお買い得です
(とおと)さりさりと星降る夜更けあなたではないひとと読む月世界地図
(千束)手の中で白紙の手紙握りしめ今更なにを笑えというの
(はぼき)あっけなく更地となったふるさとの家は記憶とアルバムの中
ウクレレ)またひとつ更新された感情を抱きしめぬるり夜は更けゆく
015:吐(51〜75)
(梅田啓子)口すぼめ吐く息ぬくし 娘よりたしなめられて老い母になる
(とおと)重ね合ふ荒き吐息もやがて果て君はねむれり夜凪の海に
(槐)寄り添ひて吐き通す嘘知らぬげに月の淡きを恨む花陰
(廣珍堂)カラスにも 吐血のこゑは あるだらう 逢魔が刻の 電柱のうへ
(はぼき)感情は爆発すると怖いから三十一文字に分けて吐露する
(由子)本音吐く介護ブログを読むことで 負い目消してる長女のわたし
ウクレレ)透明なクリアファイルに息を吐く確かな明日を曇らせたくて
016:仕事(52〜76)
(廣珍堂)野良仕事 習ひはじめた 早朝に 通勤電車は 遠く過ぎ行く
(はぼき)さわやかな「仕事ですから」訳したら「義務感だけでやってるんです」
024:妙(26〜50)
(廣珍堂)古池に 雪の残りて 妙心寺 観光バスは 未だ来ぬまま
(青野ことり)戒名に妙のつく人 生前を知らないけれど微笑んでいる
025:滅(26〜50)
(原田 町)脅し文句さんざんならべ自滅への道をたどりし歴史のありき
(あわい)部屋の灯を落として香を焚く夜にわたしの今日が燃えて滅びる
(円)滅ぶだの終わりだなどともう言えずそれでも見入る赤い満月
(廣珍堂)畦道に 曼珠沙華咲く 明日香村 滅びしひとを 弔ふがごと
(梅田啓子)プルトニウム半減期二万四千年 人類滅びしのちも残るや
026:期(26〜50)
(はぜ子)思春期の彼のズボンのポケットの中のテイッシュに蟠る恋
(円)期日前投票に似たものを書くいつか此処から離れるための
(梅田啓子)太陽は小氷河期に入るという 自分のために生きていこうか
027:コメント(26〜50)
(コバライチ*キコ)新聞のコメント欄に旧友の名を見つけたり花冷えの朝
(青野ことり)唇を真一文字にした娘 ノーコメントを貫き通す
佐藤紀子)コメントをせぬのが夫のコメントか 強き否定の影がちらつく
(梅田啓子)会ひしことなき人なれどコメントがわれの心を見抜いてゐたり
051:般(〜25)
(紫苑)身に生ふる鱗あまたをもてあまし般若の口にこゑのなきなり
(はこべ)般若とは女性の苦をば含むとう何故かなつかしどこかかなしい
056:善(〜25)
(紫苑)そのかみの都の冬をおもひつつ堆朱の椀に善哉を食む
(みずき)春冷えの善くも悪しくも過ぐる日を苛立つ指でなぞるさよなら
059:永遠(〜25)
(西村湯呑)紙に生まれ電子の舟に乗り換えて三十一文字は永遠をゆく
(みずき)永遠と言ふ囁きの甘やかな日日を攫ひて荒東風(あらこち)の吹く
(砂乃)永遠に続くと危惧した残業を節電に負けて持ち帰る夜