題詠100首選歌集(その12)

              選歌集・その12

028:幾(26〜50)
(こはぎ)幾つかのイミテーションの友情を飾って笑う教室の隅
(廣珍堂)幾度も 流刑のひとの 過ぎゆきし 峠に立てば 海原の見ゆ
佐藤紀子)幾許か多めに入れる賽銭に口には出せぬ願ひを一つ
029:逃(26〜51)
(海)逃げ出したくせに近くにたたずんで声をかけてと待ってる背中
(原田 町)轢き逃げの犯人さがしの看板が色あせしまま三叉路にあり
(あわい)諦めを胸に飼いつつ生きている逃れられない柵(しがらみ)のため
佐藤紀子)寒さより逃れて来たる指宿の畑に太しそらまめの莢
(お気楽堂)光明は忘れもしない着信音走って逃げる黄泉平坂
(光本博)ラッシュ時の背向(そがひ)におこる諍ひを逃るる術も持たず聞きをり
030:財(26〜50)
(希屋の浦)財布には小銭だけしかなくっても心のどこかは温かかった日
(あわい)金銀の財はなくとも君がため珊瑚の色に染める爪先
佐藤紀子)「時」といふ財宝だつたにちがひない 玉手箱より出でし煙は
031: はずれ(26〜50)
(あわい)さよならを後に残して逃げてゆく期待はずれを知られる前に
(梅田啓子)ここに来てはづれっぱなしの人生もよきかな氷菓がぶりと齧る
(橋田 蕗)下駄履きの石田比呂志が夢にでてはずれ車券が吹雪く真夏日
(ひじり純子)知恵の輪がうまくはずれた嬉しさのような些少なことで生きてる
053:受(〜25)
(紫苑)憐れみを乞へるアリアに身をひたす真夜かなしかりマタイ受難曲
(桃子)部活夢受験音楽読んだ本 語りつくしたね恋だけ避けて
(美穂)あの時に薔薇の花など受取らず「ごめんなさい」と言えていたなら
(廣珍堂)花魁が身受けの家の廚にてはやり歌など口ずさみ雨
054:商(〜25)
(藻上旅人)夕暮れの商店街を歩いてく二人の影はとっても長い
(桃子)不意の雨 商店街に飛び込んで あつあつコロッケほおばる旅先
057:衰(〜25)
(みずき)衰弱の描線ひきて心電図 櫻明かりのコートが寒い
(紫苑)衰ふる記憶の果てに幼子のごとくおうなのひとに甘ゆる
(新井蜜)衰へた身体を包むゆふなぎが下着のやうにはみ出してゐる
(矢野理々座)衰えはまず目にくるか足だろか老けたと自覚する瞬間か
058:秀(〜25)
(紫苑)縦糸をくぐりゆく梭は魚(いを)のごと秀つ手(ほつて)をはなれ自在におよぐ
(桃子)おめでとうちゃんと笑って言えたから 私は優秀かしこいピエロ
060:何(〜25) 
(映子)何時何処で誰が私を待ってるのドレスは若草色に決めたの
(紫苑)ドラマにもよくある景色たむろする若きを誰何するこゑの鋭(と)し
(遥)何となくあなたの顔が見たくなりフェイスブックをうろうろしてる
(みずき)何気ない言葉に凭れ昨夜(よべ)よりの哀しみを消す六月の雨
(美穂)履いてみて何百万歩も歩くこと想像しつつスニーカー買う
(新井蜜)何をした報いだらうかレジ横の席に煙草のけむりが澱む
065:投(〜25)
(西村湯呑)ぴいぴいと投げやりに鳴く炊飯器30時間の保温の果てに
(砂乃)投げられた「早期退職」受け止めて教師は揺れる3月の朝