題詠100首選歌集(その13)

         選歌集・その13


032:猛(26〜50)
(佐藤紀子)〈猛犬に注意〉と門に札ありて静まり返るその奥の闇
(諏訪淑美)借りてきたネコが時折猛獣に変わるが怖いと亭主がぼやく
033:夏(26〜50)
(ひろ子)とほけれどかがやきやうやうあざやかにきみがゐた夏きみとゐた夏
佐藤紀子日向夏のアイスクリームのひと匙に砂湯のほてりおさまりてゆく
(橋田 蕗)先生の最終歌集を読んだ初夏 一番星がすごく眩しい
(お気楽堂)マフラーにロングコートの襟立てるキャラクターゆえ夏はお休み
(あわい)夏の香が強くなるほど鮮明に蘇る恋が胸にまだあり
(由子)夏なれば夏の景色をたのしみぬ父母すこやかなりし思い出
034:勢(26〜50)
(原田 町)誤魔化しの不祥事などもひとむかし伊勢の赤福お土産にする
佐藤紀子)「よいしょっ」と勢ひつけて起き上がる旅の五日目少しつかれて
(莢)ブランコを漕ぐ子ははるか地をはなれうなじにまわる風の勢力
(ひじり純子)勢いをわざと殺して向かい合う自爆するのはまだまだ早い
(由子)勢いはなけれどぼんやり夜景みて週末力の備蓄をしている
(青野ことり)三日間伊勢神宮の森にいて少しやさしくなった気がする
(梅田啓子)勢ひを持ちてドミノの倒れゆく 原発輸出・武器の開発
061:獣(〜25)
(みずき)見惚れゐし鳥獣戯画の数葉へ歳月を経て古ぶ春の日
(横雲)踏み入りて闇に迷へる獣道忍ぶやいづこ花の匂へる
(砂乃) 傷ついた獣のごとくじっとして体調不良を隠して治す
(桃子)あくびして耳のうらなど掻いている 我が家の小さな百獣の王
062:氏(〜25)
(みずき)氏変へし名刺も春の懊悩もこころ育む明日の糧なる
(シュンイチ)「彼氏」って、言うときみんなカトウではなくてタナカのイントネーション
063:以上(〜26)
(遥)これ以上攻めてはダメとわかっても勝手に指が言葉を紡ぐ
(桃子)これ以上もしもやさしくされたなら はじけてしまう私はそらまめ
064:刑(〜25)
(シュンイチ)思春期のモラトリアムを抱いている自由の刑を抜け出せなくて
(はこべ)歩く道君と一緒の残り日は終身刑とは決しておもわず
066:きれい(〜25)
(藻上旅人)ふるさとできれいになったきみをみたあしたはそっとこのまちをでる
(紫苑)きれいさびあをき楓のひともとを風ふきおとす遠州の庭
(みずき)洗ひ髪映して遠き潮騒へいつそきれいな秋思の髻華(かざし)
(横雲)乱れつつせきれい叩く水の辺に心許なく空見上げたり
(さわか)おはようの手紙を眺め毎日をきれいな色に染めると決める
(美穂)行く人の「きれいね」と言う声がして庭先の花微かにゆれる
(矢野理々座)バーチャルな恋ならきれいに初期化する未練引きずるリアルな私
068:兄弟(〜25)
(新井蜜)ともに揺れためらふ我ら兄弟の前に女が寝そべつてゐる
070:柿(〜25)
(みずき)柿の葉の湯船に映る灯し火へ薄羽蜉蝣消えて真夜なる    
(横雲)青鳥の怖るるなしに啄ばめば熟れし柿落つ秋の暮方
(桃子)見上げればたわわな太陽実らせて 渋柿の枝ののびやかな空
(新井蜜)桃畑に青き柿の実落ちてゐて神の不在はずつと前から