題詠100首選歌集(その15)

       選歌集・その15


002:甘(116〜140)
(miki)甘酒を飲めずに逝った母に詫び ひとり飲み干すほろ苦き味
(ロクエヒロアキ)スカートの篭でいちごを転がして甘い小雨を受けるまひる
003:各(106〜130)
(葵の助)学校の便りは「各自」と表記して急に際立つ子らの輪郭
(橋田 蕗)目前の黙す海空ながめつつ各駅停車の電車まつ秋
(希)ゆっくりとあなたを遠ざかっていく各駅停車のやさしい速度
008:瞬(79〜104)
(稲生あきら)絶え間なくひとつひとつの瞬間が繋がってゆくことの不思議さ
(はぼき)この歳でまだ夢見てる「人生が変わる一瞬」いつか来るはず
(葵の助)春だから変わるねわたし瞬きも許さないほどまわるスカート
(お気楽堂)相棒が予想どおりの反応を返さぬときは一瞬焦る
(原 必)一瞬で終わりますから 注射器の中で真夏はこくんと揺れる
(美亜)瞬間を切り取るための言の葉を三十一文字(みそひともじ)で探せば夜更け
018:闘(51〜75)
(廣珍堂)闘病の ふたりが座る 屋上を よけて吹き抜く 北よりの風
(とおと)月暈を天蓋となしうらうらと甘き悪夢にある闘技場(コロツセオ)
(はぼき)朝ごとにくり返される時間との闘い今日もギリギリで勝つ
(葵の助)始業前ベージュピンクの口紅を丁寧に塗る戦闘準備
020:嘆(51〜75)
(橋田 蕗)言いたいこと言えぬと嘆くこの日ごろ黒髪山に白雲の浮く
(守宮やもり)ひっそりと嘆き悲しむため息が無数に積もる午後遅い書架
(葵の助)縁取りに湛えた嘆きを零さないために化粧をする人だった
ウクレレ)嘆いても仕方ないとか語らずに肩をならべて星を眺める
(ろくもじ)嘆きたいことなんてない ケータイを捨ててしまえば青空に虹
038:イエス(26〜50)
(穂ノ木芽央)過ぎ去りしイエスタデイの残滓もて扉をたたくしかないぼくら
(廣珍堂)フクロウの 羽音がイエスと 響く闇 鋭き爪は すでに天空..
(藤原湾)イエスしか言わざるを得ぬ局面で 笑み浮かべつつノーを探した
(梅田啓子)裸足にて路上に子供と立つイエス くらき町並み月が出てゐる
040:誇(26〜50)
(ひろ子)十八の子をもつ今にわが夫(つま)の職人ゆへの不器用誇る
(はぜ子)串刺しのカエル片手に誇らしげ女の子って強くて弱い
(葵の助)夏休み明けの教室誇張した話にひとつ事実を混ぜる
(由子)明日ひと日誇れる長女へと変わるホームに暮らす母のためにと
(はぼき)人間と遊んでやっているのだと誇り高き目光らせる猫
(夏樹かのこ)あくまでも水着だからと誇示されて(水着だから)と逸らすまなざし
071:得意(〜26)
(シュンイチ)曲がらないカーブを得意げに投げるあれがぼくらの原点だった
(桃子)得意気にしっぽをたてて歩く猫 夜桜抜けて月に会いにゆく
(美穂)呉服屋の上得意様ご招待もはやDM来ることもなし
072:産(〜25)
(紫苑)あはき陽に鈴の音ひとつ響きをり産土神をまつる社の
(新井蜜)殺すのも産むのも神の気まぐれか腰骨かがめぬるい茶を飲む
073:史(〜25)
(遥)今回の旅は妻へのサービスと史跡めぐりはお預けにする
(こすぎ)自分史をほどいて伝えてくれた祖母神隠しから白蛇伝説