参院選での選択(スペース・マガジン7月号)

 例によって、スペース・マガジン(日立市で刊行されているタウン誌)からの転載である。

 
   [愚想管見]   参院選での選択         西中眞二郎

 早いもので、年末の総選挙と政権交替から半年以上経過し、参院選もこの下旬に迫った。現在のところ参院選に対する世間の関心は比較的薄いようで、6月中旬の朝日新聞世論調査によれば、「今回の参院選に大いに関心を持っている」という人の割合は、25%に止まっている。衆議院における与党勢力の圧倒的強さからすれば、参院選の結果が政権自体に大きな影響を与える可能性は小さいだろうから、参院選への関心が比較的低いことも理解できないことではない。しかし、それだからと言って、今度の参院選を軽視して良いのかどうかには、大いに疑問がある。
 現在のところ安倍政権は、国粋主義的な牙をある程度隠した路線を歩んでいるようだが、参院選後には安倍さんの持論を強く打ち出す可能性を秘めている。その最たるものは憲法改正である。今度の参院選の結果、自民党、維新の会などの改憲勢力が2/3を占めることになれば、96条をはじめとする憲法改正の動きが本格化する可能性が高い。公明党改憲には慎重なようだが、自民党と連立政権を組んでいる以上、改憲に対して慎重姿勢を貫く保証はない。そういった要素を考えれば、与党勢力プラス維新その他の改憲勢力議席の2/3を占めるかどうかということは、我が国の今後を左右する極めて重要な分岐点だということが言えそうである。
 仮に2/3に届かないとしても、衆参のねじれ現象が解消すれば、改憲の勢いにはずみがつく可能性が高いし、改憲まで行かないとしても、安倍政権が、いよいよ自信を持って、その国粋主義的な傾向を強めることは十分予想できる。もとより改憲の賛否について意見の分かれることは当然だし、頭から改憲を非と決めつけることには問題もあろうが、少なくとも、国粋主義的な思考の上に立ち、戦後の平和主義路線に否定的な考えを持ち、場合によっては戦前の体制に郷愁を抱いている視点からの憲法改正、特に中身の議論を回避して改正要件の緩和にまず手を付けようとする憲法骨抜きの動きは、極めて危険な路線だと私は思っている。
 同じ朝日新聞世論調査によれば、安倍内閣の支持率は59%と比較的高い。それは良いとしても、その個別の施策に対する評価のうち、「歴史に対する見方、防衛力強化の姿勢と、外交との関係」につき、「プラスの面が大きい」という比率が44%と、マイナスの26%を大きく上回っていることに愕然とした。私の安倍政権に対する最大の危惧の念は、まさにこの点にあるのだが、それに対する肯定的評価が高いということを、どう考えれば良いのだろうか。維新の会の両代表の非常識な発言、また、最近のいわゆるヘイト・スピーチの横行などによって代表される狭量的な国粋主義が、深層部で安倍内閣の支持につながっているのではないかということが、私の最も恐れる点である。
 今度の参院選の論点のうち最大のものは、憲法改正をはじめとする我が国の基本路線の選択の問題であり、その結果が我が国の右側への大きな方向転換の契機にならないよう祈念するのみである。(スペース・マガジン7月号所収)