題詠100首選歌集(その16)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(年初に100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して9年目になる。私の投稿を先行させつつ、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。

           
           選歌集・その16


010:賞(79〜103)
(お気楽堂)腹いせにバッキンガムの灰皿を盗んで帰る恩賞として
(桜葉明美)前の子が転んで取れた一等賞 触れずじまいの卒業文集
041:カステラ(27〜52)
(はぼき)分数を教えるためにカステラやリンゴがいくつ切られただろう
(梅田啓子)かんづめの水飴、バナナ、カステラが病気の少女のおともでありき
042:若(26〜50)
(芳立)ためらひの衣をかすめて風かをる五月は若き胸を彫り出づ
(橋田 蕗)大相撲はなやかりしころ焼かれしや若花田とう小皿一枚
(お気楽堂)滑り落ちるシーツをつかむ若干の羞恥心なら持ち合わせ有り
(葵の助)筍と若布がすまし汁の中おすまし顔で正座する春
(莢)遮断機の音は若葉を揺らしつつ景色の裏の傾斜をくだる
(はぼき)食べごろのアンデスメロン切りわけて若草色の芳香に酔う
(梅田啓子)若鮎の落鮎となる必然に色の抜けたる髪を洗へり
044:日本(26〜50)
(ひじり純子)「日本中が感動した」と聞くたびにここは日本でないと思えり
074:ワルツ(〜25)
(砂乃)ゆっくりとワルツのリズムで船を漕ぐ会議は時に眠気の宝庫
(美穂)流れくる「小犬のワルツ」に夕食の後片付けもさささと進む
(はこべ)園庭にワルツ流るる体育の日幼の帽子大きめなりき
(廣珍堂)くるみ割り人形が棚で敬礼す 花のワルツが包むみどりご
075:良(〜25)
(はこべ)良寛の五合庵にはやさしさのアリの巣ひとつ鎮座しており
(お気楽堂)きっぱりと馬鹿だと言われ初めての良き友人を得たことを知る
(廣珍堂)キャンパスは 知らぬ建物 多くして 良き師はすでに 伝説となる
076:納(〜25)
(みずき)春なれば時代遅れの人形も納めし蔵の戸を開け放つ
(美穂)この冬も出されぬままに春は来て収納ケースのセーターの孤独
(はこべ)納豆をまじめに混ぜるきみがいていつもの朝がかわらぬうれしさ
(廣珍堂)古仏へと 納経終へて 見上ぐれば 塔のうへには 一片の雲.
(葵の助)納得はしたのでしょうか下腹部を十月(とつき)の命がノックしている
077:うっすら(〜25)
(美穂)うっすらと記憶の中に祖母がいてわたしを乗せて乳母車を押す
(橋田 蕗)うっすらとほほ紅をさす九十の母にやさしくあれや六月
078:師(〜25)
(キョースケ)正論を述べる教師の口元にほんのわずかなえくぼを見たり
(西村湯呑)「それはもう全ての人が師ですから」どこでも問題児の君が言う
(砂乃)良い師にはなかなか巡り合えないと師の影踏みて弟子が呟く
(美穂)そらまめのような子だったと恩師言うそういえば孫もそらまめのよう
(廣珍堂)家族だけ 招き入れたる 病室で 脈とるを止む 医師の肩幅
079:悪(〜25)
(映子)入院中ついたあだ名は悪代官いつも一緒の彼女越後谷
(遥)悪かった君の気持ちも考えず後ろを向けば後悔ばかり
(こすぎ)こうやって三十一字に押しこめる悪あがきだとわかっていても
兵站戦線)ちよい悪のイメージづくり雪駄履く夏はすぐそこ素足の季節
(橋田 蕗)ことのほか長き悪阻にて不安なるわれに無言の月の光さす
(女郎花)悪口をてんこ盛りして内緒ごと寿命が延びるように愉しい