題詠100首選歌集(その20)

        選歌集・その20


013:極(77〜101)
(しほ)コンバースの白きバッシュで下りていく極楽寺坂の海までの道
(秋月あまね)何もせず生きられることを極楽と言うならとうに間に合っている
024:妙(51〜75)
(はぼき)何気ないことばが妙にうれしくて思い出すたび照れ笑いする
(女郎花)やきもち焼き妙音天がおわします不忍池は独りで参る
(守宮やもり)絶妙の力加減で抱きしめるその優しさに少し眠ろう
025:滅(51〜75)
(山本左足)人間に進化しきれていないまま絶滅危惧種として生きてゆく
(椋)点滅の灯りに心残しつつ 君と別れて車走らす
051:般(26〜50)
(こはぎ)一般的らしき思考を寄せ集め形骸化した教室にする
(女郎花)ふり返る花野の雨に濡れながら<般若>を超えて<泥眼>に立つ
(椋)嫉妬する心見透かす般若の面 恐ろしさよりも悲しさに似て
052:ダブル(26〜51)
(原田 町)だぶらせてと書けばダブルは日本語に清少納言も使っていそう
(はぼき)いいことが続いたからと奮発しダブルで頼むアイスクリーム
(槐)手を振ればダブルシャープの笑ひ声明るく響く再会の駅
094:衆(〜25)
(美穂)おかしいと思えど声をあげられぬ大衆の中のひとりの弱さ
(橋田 蕗)まばらなる聴衆そして辻に立つのぼりにとまる蝉のぬけがら
(葵の助)家族には聞かれたくない少女らの声を公衆電話は聞いた
095:例(〜25)
(紫苑)身のうちにかなしき熱を秘めてをり例へば貝の虹いろの洞(ほら)
(みずき)例へばと言ひて黙(もだ)せる君の背の不意の冷たさ蝉しぐれ降る
096:季節(〜25)
(遥)加速して巡る季節に立ちすくみ明日からの風待ちわびている
(桃子)守れない約束の花が散ってゆく おいてきぼりの季節のはざまで
(砂乃)季節など関係無くなりコンビニのおでんつまんでランチにかえる
(美穂)悩んだら戻っておいで庭中に季節の花を咲かせておくから
(はこべ)たずねたる新宿御苑に若葉萌え季節の花は迷わずにあり
(橋田 蕗)父さんの声の記憶がうすらいで季節はふたたび桜を散らす
(鈴木麦太朗)温かい缶コーヒーは無いんだねおいてけぼりの季節のなかに
097:証(〜25)
(こすぎ)晴れ男という証明が示されて父の葬儀の暑さ格別
(砂乃)身分証代わりに出したパスポート10年前の私が笑う
(はこべ)社員証首からさげて昼休みビルの谷間の一景となる
(矢野理々座)愛してる証拠見せてと言う時点で既に破局を確信してる
098:濁(〜25)
(藻上旅人)濁流の中に魚を見い出して進む方位を確かめている
(美穂)秋の日は「ウ」に濁点をつけようかヴェルレーヌの詩のヴィオロンのように
(鈴木麦太朗)濁りたる缶コーヒーのいらだちよ振り返るのはみな過去のこと