題詠100首選歌集(その21)

         選歌集・その21


007:別(102〜126) 
(ロクエヒロアキ)別れ際にあなたがそっと差し出したレモングラスの薫るおりづる
014:更(77〜101)
(しほ)更衣室にサボンの石けん香りたり夏の日ざしの明るさのなか
(未来るちる)実際は何てことない着替えでも特別なのだ女子更衣室
015:吐(76〜100)
(大島幸子)朝がきて窓を開ければ冷房が掃きだし窓から吐き出されゆく
(しほ)ミドリガメの吐息泡立つカメ釣りの一度も釣れぬ七夕まつり
(村木美月)強すぎるヒーローなんかほしくない弱音を吐いたあなたがほしい
026:期(51〜76)
(椋)再びの思春期のごと惑う日々 鏡に映る自分を撫でる
(松浦可音) やわらかき嘘にくるまるあなたから遠い時期には雪をながめて
(流川透明)財布には期限の切れたチケットが誘えなかった時の数だけ
028:幾(51〜75)
(はぼき)どうしても文字にできないもどかしさノートの端の幾何学模様
(葵の助)念のため嘘を幾つか混ぜながらブログに綴る今日のできごと
(山本左足)見上げるものの存在しない幾億の星にも空があるということ
(miki)幾年月 生命(いのち)ありしか老いの身に 逢いたき人の訃報重たし
(五十嵐きよみ)幾億の冨があっても退屈でオルロフスキーはまた大あくび
ウクレレ)背を向けた物理の教授は黒板に幾何学模様のため息をつく
(秋月あまね)最悪の事態を胸に描きつつ幾らかましな現実に笑う
053:受(26〜50)
(はぼき)受付のスタッフ皆に覚えられ通院治療七年となる
(湯山昌樹)久々にラジオ買いたり ダイヤルを回して受信すスパイのごとく
054:商(26〜51)
(廣珍堂)不揃いな トマトの並ぶ 商店は 軒先の影 鮮やかにあり
(芳立)小夜ふけてアベノミクスのこぬか雨からだひとつの商ひにふる
(こはぎ)部活後にコロッケを買うきみを待つ商店街に夕暮れは降る
(鈴木麦太朗)缶コーヒーの缶からころと風のなか商店街は遠いゆうぐれ
(たえなかすず)おそなつの商店街のシャッターに緋色の月がひかるか今も
055:駄目(26〜50)
(こはぎ)駄目だって言うからこだわりなんかないスカート丈を5cm上げる
(莢)駄目なまま眠れと雨と梔子が生まれる前の夜を連れてくる
(たえなかすず)帰るひと帰らぬひとがわたくしの駄目な部分につぎつぎさわる
056:善(26〜50)
(穂ノ木芽央)己が身に棲まふ善きひと悪しきひと今日のカードはまだ決めかねつ
(コバライチ*キコ)背景に湧き立つ雲の善光寺信濃の国に暑き夏来る
(湯山昌樹)何もかも「改善」とばかり言われる世 「そのままでいい」と誰か言わぬか
100:止(〜25)
(美穂)百首めはケーキ屋の前で立ち止まるそうだあなたの誕生日だと
(お気楽堂)死ぬなんて止めろと泣いて墓を去る友の歩みに過去の経歴