題詠100首選歌集(その23)

          選歌集・その23

017:彼(76〜100)
(鳥羽省三)彼岸より視れば徒しき事ならむ猛暑の今日は写経にて果つ  
019:同じ(76〜100)
ウクレレ)真夜中にデジタル時計はこっそりと同じ数字を五つ並べる
(津野桂)美容室の合わせ鏡に映るのはわたしと同じ名前の少女
(千束)同じ糸つながってるならいいのにね 小指を曲げてみたりする午後
(鳥羽省三) あの夏と同じ思ひで蝉を聴く猛暑果てなき終戦記念日
032:猛(51〜75)
(大島幸子)従順なふりして眠る猛犬も午睡に飽きる午後三時半
(秋月あまね)猛者たちが羊の皮を被りつつかき氷など販ぐ基地祭
033:夏(51〜76)
(はぼき)風鈴をわざと鳴らしてつかの間の涼を求める節電の夏
(五十嵐きよみ)行きたいと思うばかりでこの夏も湖畔の音楽祭を見送る
(大島幸子)かなかなと疑問の声が鳴り止んで不意に魔が差す夏の夕暮れ
(鳥羽省三)紺碧のみくりが池に影映し室堂平の夏に我立つ
(葉月きらら)ひと夏の思い出なのか消えてゆく水着の跡と恋の傷跡
034: 勢(51〜76)
(あわい)初夏の風に背中押された勢いであなたに好きと告げる水無月
037:恨(51〜75)
(梅田啓子)晴らすことのできぬものらし〈恨〉の文字 屋根を濡らして雨降りしきる
(鈴木麦太朗)缶コーヒーの缶に恨みはないけれど資源ゴミなればしっかりつぶす
(円)悔恨と呼び得るものは何も無く夕暮れが来て影は濃くなる
(千束)背中から広がる空がまぶしくて妬み恨みも越えてく坂道
(五十嵐きよみ)捨てられた男の恨みがましさを歌うには若すぎるテノール
061:獣(26〜50)
(葵の助)怪獣は君達でしょう母ちゃんをガミガミ怪獣なんて呼ぶけど
(女郎花)獣心をあなたに向けて愉しもう儀式のように夜の爪を研ぐ
(千束)もうだれも味方になってくれぬから獣のごとく吠えたっていい
(槐)結ばれて獣となりし春の日を手繰りて見上ぐ秋の星空
(ひじり純子)美しき獣となりてお互いを自分を見つめ直したい九月
062:氏(26〜50)
(廣珍堂)児童らが 蘇我氏の眠る 野辺に立ち ジャンプするとき 真つ青な空
(原田 町)この村のいずれの氏に属さない他所者われが学ぶ古文書
(こはぎ)氏名欄空白のまま飛ばそうか進路希望は青空のさき
(千束)氏名欄そっとあなたの苗字だけなぞって消してなぞって捨てる
063:以上(27〜51)
(海)細いけど切れない糸でもう五年恋人以上友達未満
(こはぎ)顔見知り以上友達以下そんな関係ばかり繋ぐ教室
(天鈿女聖)今日以上楽しい明日になるようにスケッチブックに描くひだまり
(夏樹かのこ)他人以上知人未満の集会で遠くに澄んだひぐらしを聴く
064:刑(26〜50)
(橋田 蕗)弁護士の従兄と刑事の兄笑みて杯交わしおる父の法要
(原田 町)小塚原刑場跡のお地蔵さんペット供養の碑も建っている
(莢)ときおりは何かの刑で犬であり私であるかのように連れ立つ
(コバライチ*キコ)砂浜に一輪咲きし百合の花風吹き渡る処刑場跡