題詠100首選歌集(その25)

          選歌集・その25


003:各(131〜155)
(桜葉明美)関係者各位に告げていることと別の想いを書いてまた消す
(kei)たくさんの秋が次々乗ってくる夕日色した各駅停車
(深森千夜)各駅に停まる電車で旅をして海が見えたら降りてみようか
(黒崎聡美)各々で生きるしかなく目薬を一日四回左眼にさす
(白亜)たどり着くまでの時間に揺られつつ各駅停車に乗っていこうよ
004:やがて(128〜152)
(深森千夜)黒髪の乙女はやがて大人びて僕の知らない表情(かお)を覗かす
020:嘆(76〜100)
(翔子)なにもかもあなたに委ね葱刻むあの時からか嘆くのに倦む
(津野桂)嘆息が届いてしまう距離にいて知らぬふりして揺れるガーベラ
(葉月きらら)淋しいと嘆いてみてもあの人の瞳に私映りはしない
真魚)嘆願書かくとき少し偽善者の顔のぞかせる私が嫌い
041:カステラ(53〜78)
(千束)カステラの敷紙めくる指先についたザラメをずっと見ている
佐藤紀子)長崎のカステラ屋さんの店先に少し値引きの「弟子焼き」並ぶ
(五十嵐きよみ)切り分けたカステラどれが大きいか子供の頃にはおおごとだった
(大島幸子)銀色のフォークでこそぐカステラの粗目(ざらめ)が落ちる底の薄紙
044:日本(51〜75)
(梅田啓子)勇ましき掛け声のもと掻き消されゆくのか日本を危ぶむこゑは
(千束)一筋の雲が消えてく登校日本当のことなんていらない
(五十嵐きよみ)事故のあと日本に来ないバリトンの公式サイトのリンクを外す
047:繋(52〜76)
(湯山昌樹)ケイタイのデータとばした 我々を繋げる糸の何とはかなき
(梅田啓子)繋累の無きがごとくに遠花火消えては上がりあがりて消ゆる
佐藤紀子)桟橋に繋留された漁船より上げしばかりの蟹を買ひきぬ
(ひろ子)繋がれば穏やかならぬ事あればLINE(ライン)もFacebookフェイスブック)もせざり
(しほ)小児科の受付に母子見てをれば血の繋がりを感じてばかり
066:きれい(26〜50)
(莢)思い出がきれいに澄んでいきそうで草を千切ったあとの爪の香
(湯山昌樹)直截に「きれいだね」とは言えないで「かわいいね」と服のせいにしてみる
067:闇(26〜51)
(ロクエヒロアキ)夕闇に野菜スープの浸されてひとりもひとのいないキッチン
(原田 町)暗闇にスカイツリーのきらめくをしばし見上げる通夜の帰り路
(海)図書館で借りた呪いの巻物で子らと一緒に闇をさまよう
(梅田啓子)闇をもつ男がわれを見つけ出すやみを放りて差し出すために
(コバライチ*キコ)闇を切り風をも切りて白き指おわらの夜に編笠傾ぐ
(諏訪淑美)闇市の喧騒の中面影を捜して彷徨う終戦ドラマ
068:兄弟(26〜51)
(原田 町)祭壇の従兄弟はすっかり禿頭に生きて会わざる歳月無念
真魚)大まぐろ解体ショーのBGM「兄弟船」が流れる鳥羽市
(諏訪淑美)兄弟のリモコンカーはパトカーに消防車だった団地の歩道
069:視(26〜52)
(芳立)井のなかの蛙が視野をひろげれば魚眼レンズに世界がゆがむ
(湯山昌樹)既視感を覚えたのはまた海のこと 潮の香りだけ私に残して
(梅田啓子)視神経つかい過ぎたる夕ぐれはわさびの花をくちにふふめり