題詠100首選歌集(その26)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(年初に100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して9年目になる。私の投稿を先行させつつ、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。
         

選歌集・その26


010:賞(104〜128)
(大島幸子)良い子でも悪い子でもない僕達の賞罰欄は空白のまま
(鈴木麦太朗)参加賞はもらえるだけで儲けもの缶コーヒーをかばんに入れる
(詩月めぐ)横顔に見惚れてうわの空で聞く美術鑑賞イヤホンガイド
今泉洋子)入賞の懸崖並ぶ宗像宮歌会の間(あはひ)菊の香のする
021:仲(76〜103)
(葉月きらら)キスをする仲ではないし髪の毛を撫でられただけそれだけの事
(kei)仲良しの背中に海を見ています深みに嵌るまで泳ぎたい
(音波)ここにくる駅からの道あなたとの仲 今日は記憶がやけに細かい
今泉洋子)恋仲と噂されたる事もなく過ぎし一世をすこし寂しむ
(白亜)6月の雨はやわらか 仲なおりのことばを選ぶ放課後のため
022:梨(76〜100)
(津野桂)母の住む家の門扉は軽すぎて硬い花梨は実りて落ちる
(kei)川のように流れる君の言い訳を遥か遠くに聞き梨を剥く
(桔梗)さりさりと梨をむく手はやわらかく去りゆく夏をしづかに送る
(白亜)遠い日のおもいで、おいで 洋梨のタルトさくさく切りわけていく
(黒崎聡美)梨をむく つながりながら落ちてゆく皮はわたしの涙となった
023:不思議(76〜100)
(中村成志)新宿に夢の欠片が重なって不思議な夢を見送っていた
048:アルプス(51〜75)
(山本左足)アルプスの少女もいつか知るだろう夕陽に涙するそのわけを
(エクセレント安田)信州へ 向う急行 「アルプス」は 夜闇の中で 汽笛を鳴らす
071:得意(27〜52)
(葵の助)逆ギレが得意になった謝れば非を責められる会社のせいで
(はぼき)得意とは言いきれぬまま「好き」だけで歌道に生きて二十年過ぐ
(椋)得意気に弾けるダンスの若者の リズムに二人歩を合わせ行く
072:産(26〜51)
(原田 町)わが庭のたった一本の山椒の木アゲハは多くの卵産みたり
(莢)訪れを待たない夢の白日にがらんと静まる産業道路
(梅田啓子)産土はわが胸のなか 風呂を焚く薪の匂ひも父母もなく
(はぼき)材料のひとつひとつに原産地書き出してあるランチのメニュー
(椋)お土産の桜模様の手鏡に 君を写して口紅をひく
073:史(26〜53)
(廣珍堂)教科書は 勝者の歴史と なつてをり 多武峰へは 草深き道
(原田 町)歴史的大敗という見出し記事また読まされて無気力の夏
(千束)あまりにも遠くのことを語られる史学の講師はどこかまばゆい
(希屋の浦)歴史ではタラレバないと言う父がわたしの未来にタラレバ語る
(じゃこ)歴史的建造物を取り囲む女子高生のかわいいあくび
074:ワルツ(26〜51)
(鈴木麦太朗)なまぬるい缶コーヒーはあるのですうつろなワルツを聞くときのため
(莢)夕闇にワルツの流れる庭園で重たい花が遅れてひらく
(ひじり純子)指先で空に三角描いてみるワルツ指揮する指揮者のように
(諏訪淑美)初恋は未来に向かう一里塚あの運動会のワルツの調べ
075:良(26〜52)
(原田 町)夫には良人という文字あるを忘れていたり古妻われは
(梅田啓子)湯の中にミニ柚子七つ浮かばせて良寛さまになりて遊べり
(コバライチ*キコ)子等と遊び慈しみ深き良寛の坐像は凪ぎし日本海見る
(槐)ささやきは良からぬことの企みか良夜も更けて指の愛しき