題詠100首選歌集(その27)

    選歌集・その27

043:慣(52〜76)
(じゃこ)慣れている人に聞いてと先輩が慣れた口調で言って立ち去る
(五十嵐きよみ)聞き慣れた旋律なのに曲名がなかなか浮かばないもどかしさ
045:喋(52〜76)
(夏樹かのこ)蝶に似たお喋りだから今はまだ淡くひらひら笑ってあげる
(青野ことり)外壁がくすむ団地の昼下がり 手押し車と杖がお喋り
(鈴木麦太朗)いつもより苦く感じる缶コーヒーいささか喋りすぎたる夜に
049:括(51〜75)
(湯山昌樹)総括とも言えぬまとめの言葉にて生徒らは長い休みに入る
(山本左足)本当の気持ちは括弧に閉じ込めて聞き分けのいい人を演じる
(円)括り髪ほつれて落ちる一筋もわずかに光り過ぎてゆく夏
(大島幸子)我々と括ってみても虚しくて わたしはわたしあなたはあなた
051:般(51〜75)
(梅田啓子)お相手は一般人と紹介をされし芸人どや顔をする
佐藤紀子)リビングの般若の面と目が合ひぬ心にきざす翳の消せぬ日
(中村成志)一般であること(あろうとすること)のプラスマイナス じき春である
052:ダブル(52〜76)
佐藤紀子)「スコッチをダブルで」と言ひ脚を組む そんな女であればよかつた
(しほ)十五夜の月見泥棒来ぬ夜半の母に教へるダブルクリック
076:納(26〜50)
(原田 町)納戸色の御召に赤の裾回し形見の品の虫干しをする
(梅田啓子)手書きなる納品書を添へ送りくる歌集の活字は重みを刻む
(じゃこ)納豆の糸をたぐればしあわせという顔をしたあなたが釣れる
077:うっすら(26〜50)
(原田 町)四歳の記憶の父はカーキ色うっすら笑みを浮かべていたり
(有櫛由之)飛行蜘蛛のうっすら糸を引くここち乾いた風はどこへ吹く風
(梅田啓子)うつすらと髭の生えたる息子とはいかなるものか 貝割れを食む
真魚)うっすらとほこりのかぶった本棚の中也の顔が少し泣いてる
(じゃこ)空色がうっすら滲む白色の光のなかで目覚めれば朝
(椋)うっすらと残る感触確かめて 薬指でひく紅淡き色
078:師(26〜51)
(梅田啓子)師と仰ぐ人に反骨多きこと堅焼煎餅食みつつ思ふ
(ひじり純子)よく切れるハサミを持った美容師は殺意に気づかないふりしてる
079:悪(26〜51)
(原田 町)意地悪をしたかされたかクラス会の知らせのありて浮かぶ誰彼
080:修(26〜50)
(鈴木麦太朗)修験者もほっとひと息缶コーヒー飲んだりしてる秋のゆうぐれ
(有櫛由之)少年は阿修羅のごとき憂ひして蜻蛉の竿にあゆみよりたり