題詠100首選歌集(その28)

         選歌集・その28


002:甘(141〜166)
(葉月きらら)酔いそうで人差し指でかきまぜた甘い言葉とグラスの氷
(鈴木麦太朗)ほどほどがもてはやされる現世かな缶コーヒーが微妙に甘い
(柳原恵津子)棒アイスが今日は美味しい人形町あたりは甘酒まつりの頃か
焼きみかん)甘すぎた手作りゼリーに思い出をひとつふたつと盛りつけている
真魚)甘辛のチキンが好きと言う母の腕の細さがやけに悲しい
(白亜)起きぬけにひとくち水を飲む君とかはすくちづけほのかに甘し
009:テーブル(110〜134)
(粉粧楼)果たせない約束だけで埋めてゆく矛盾ばかりのタイムテーブル
(星乃咲月)完璧な終わりでしたとテーブルに夏の句点が残されたまま
(白亜)さくらんぼジャムひと瓶のいろ浮かべ春のテーブルひろびろとあり
(焼きみかん)いつだって天使が着地できるよう敷く花がらのテーブルクロス
(七色小鳥)テーブルにしずかに夜が眠るころわたしの森に芽吹くかたくり
024:妙(76〜100)
今泉洋子)小鼓の妙なる響きに羽衣を天女は春の空へ靡かす
(黒崎聡美)妙な雲ときみのゆびさす雲を見るこういうことで老いてゆきたい
025:滅(76〜100)
(しほ)滅菌済みと便座のフタにある紙を日日取りのぞくホテル連泊
046:間(52〜76)
(千束)うたかたにここで幕間の御挨拶さよならぼくはいまねむります
(流川透明)つかの間の恋人気分相席の男が本を閉じて微笑む
(五十嵐きよみ)ひそやかにヒロインの吐くため息のような間奏曲が流れる
050:互(52〜76)
(湯山昌樹)強豪に互角の戦い挑みたる公立校にサイレン響く
佐藤紀子)お互ひの歌を褒め合ひ勉強をした気になりて歌会を終へる
(津野桂)お互いの後ろ姿を見せぬよう背中に回した腕を絡める
053:受(51〜75)
(梅田啓子)受洗する友は粗末な布まとひ腰まで水に浸かりてゐたり
(大島幸子)まごころを確かに渡したはずなのに受け取り印をもらえずにいる
佐藤紀子)てんでんこ、死はそれぞれに受け入れてどんな人でも「それでおしまひ」
055:駄目(51〜75)
佐藤紀子)駄目ならば駄目と言ひても構はぬと遠慮がちなり君の頼みは
081:自分(26〜50)
(原田 町)おたがいに自分勝手な言い分を並べテレビのニュース見ており
(海)向いてないながらも母親業をする自分のために買うカーネーション
(流川透明)自分から口づけをする事もなく別れ話をする夢を見る
(こはぎ)自分にはなりきれなくて今日もまた誰かを演じ始める朝だ
082:柔(26〜50)
真魚)柔軟な身体がほしいとのけぞって魚のポーズ決める明け方
(中村成志)柔肌の火照りの紅を朱鷺色と口にのせれば風がながれた
(湯山昌樹)柔らかき物言いだけでは足りなくて不本意ながら大声も出す