題詠100首選歌集(その29)

         選歌集・その29


006:券(126〜150)
(深森千夜)君と観た映画の半券貼るたびに厚みを増していく革の手帳
(焼きみかん)母にあげた肩たたき券は使われることなく有効期限を過ぎた
011:習(102〜126)
(ichiei)あいつから習った酒の飲み方を思い返して一晩明かす
(鮎美)昨年度の漢字練習帳載せて西陽を浴ぶるグランドピアノ
012:わずか(101〜125)
(七色小鳥)とりもどすことのできない寂しさとわずかにあまるぼくのぬけがら
(鮎美)哀れみとわづかばかりの憎しみをボウルに練りてゐる木曜日
(詩月めぐ)独り占めできる時間はあとわずかタクシーのなか小指絡める
(黒崎聡美)テレビから青い光が放たれてわずかに染まるきみのゆびさき
(白亜)ひぐらしが最後に鳴いた日のおわり 月は軌道をわずかに逸れる
054:商(52〜76)
(梅田啓子)呼び捨ても屋号にあれば仕方なし商人(あきんど)の家に生まれしわれに
(千束)下校時によく立ち寄った商店も閉まっちゃうってとおくで聴いた
(ひじり純子)アーケード外されたあとの商店街魔法のように忽然と消える
056:善(51〜75) なし
058:秀(51〜75) なし
059:永遠(51〜75)
(白亜)永遠のきれはしとしてのぼりゆく錆の華咲く螺旋階段
085:歯(26〜50)
(千束)いつだって移りゆくもの追いかけて齲歯に気づかぬふりをしている
(原田 町)七十歳で歯の一本も欠けざると友は酢大豆の効能を言う
(コバライチ*キコ)夕刻になればまあるいぼんぼりのほんのり灯る「灯り歯科医院」
(こはぎ)唐突に歯並びなんて気になって君の前では笑えなくなる
086:ぼんやり(26〜50)
(莢)影の中を小さな影が駈けていき夏の残りをぼんやりさせる
(千束)きっといまぼんやり選んだ道の果て立ち尽くしてるそんな気がする
(じゃこ)生きてます。ぼんやりしてる人たちが落とした運を拾い集めて
(はぼき)ぼんやりとした人だねと指摘され鋭いわねと笑顔で返す
088:弱(26〜50)
(莢)弱音ペダルの付いた空です 呟きが溢れてだれも歌い出さない
(鳥羽省三) 弱法師梅の匂ひを通はせて七日施行の闇に顕はる
(原田 町)節電と言いつつとうとう冷房を弱にはできぬ夏を過ごせり
(じゃこ)結界を張るよう設置したけれどホウ酸ダンゴの効き目が弱い
(コバライチ*キコ)弱法師(よろぼし)の足跡訪ね来てみれば四天王寺に夕焼けの満つ