題詠100首選歌集(その30)

        選歌集・その30


013:極(102〜126)
(新藤ゆゆ)暫くはぼんやりしてていいのかもしれない空は極めてあおい
今泉洋子)前置きを激暑極暑と書き出せばなほ暑くなる真夏日の午後
(白亜)極小の単位さしつつ君は説く 消えゆく星の砂のながれを
028:幾(76〜101)
(桔梗)幾粒の血色を抱き赤々とひらく柘榴はその身を曝す
今泉洋子)人生は哀しきことも多けれど日に幾たびもこゑ出し笑ふ
(黒崎聡美)幾つものかさなる雲を見やりつつ忘れることの多さを思う
(村木美月)恋しくてあなたに逢いに行く道は幾重に絡む茨が刺さる
(音波)まだ燃えているのは幾つなのだろう一千万年先の銀河の
057:衰(51〜75) 
(諏訪淑美)衰えを感じる日々ではないけれどロコモに近づく兆しが怖い
佐藤紀子)衰へは先ず脚に来て駅までの徒歩の五分が七分となる
(秋月あまね)近頃は老衰にまで病名をつけて自然に死なせてくれぬ
060:何(52〜76)
(風橋平)体から何度も虹が出て行って駅は峠にいつでもひとり
佐藤紀子)今日ひと日達成感の何もなし いつものやうに夕暮れとなる
(ひろ子)何となく声の聴きたき雨降りに鳴らぬiPhone机上に置きぬ
083:霞(27〜52)
(希屋の浦)夢という霞がかったキミの背を追いかけていた10代の夏
(流川透明)霞みゆく記憶は時に優しくてあの日の服も今は着られる
084:左(27〜51)
(千束)ぎこちない左手だけがもどかしくあなたへの距離はかりかねてる
(梅田啓子)左前に着し宿浴衣を笑はれて四人の旅は最後となれり
(こはぎ)左手がぎこちなく髪を撫でるから右手を拒絶できないでいる
(只野ハル)ぎこちない君の左手震えつつ胸に置かれて動けずにいる
(畠山拓郎)恋人というのだろうか彼が去り左が寒い秋のマイカ
佐藤紀子)指輪の跡くつきり残る左手の薬指より虚しさが来る
087:餅(26〜50)
(梅田啓子)バツグより赤福餅がのぞきをり出張帰りのビジネスマンの
(只野ハル)老いた手が枝に餅花紅白を咲かせ眺めて焚き火にかざす
089:出口(26〜50)
(原田 町)今生の出口ならんか炉の扉ひらくをわれら順番に待つ
(海)入り口はひとつしかない出口だけ増えて膨れてゆく我が家計
(はぼき)迷宮の出口探すと踏み込んでいつしかそこに住みついている
佐藤紀子)総選挙出口調査につかまりてついつい事実をそのまま話す
090:唯(26〜50)
(梅田啓子)唯ひとつ希ひ叶はばゆつたりと子を育てたし数珠玉つみて
(有櫛由之)泣きさうな子供が掴みそこなったトビの影 あれは唯のうみかぜ
095:例(26〜50)
(はぼき)体験じゃリスクもあるし「実例で学ぶ」シリーズ本屋で探す
(只野ハル)例えばと君の持ち出す比喩ならばアニメネタだと顔見りゃわかる