題詠100首選歌集(その32)

 題詠100首、なかなか投稿が進まないようで、例年より大分遅れている。この分だと完走者が100人に届くかどうかも心配だし、そうなると百人一首の方法も再検討しなければならないのかも知れない。いずれにせよ、もうしばらく様子を見るしかあるまい。
 なお、昨日書いたように、このパソコンのメールの具合は、まだどうもおかしい。それやこれやでパソコンの前に向かうのがやや億劫になるが、そんなことを言ってもいられない。


          選歌集・その32


001:新(156〜180)
(kei)新しい明日はきっとやって来る赤い表紙の新約聖書
(白亜)真新しい頁をめくる指先にやどるひかりを朝と名付ける
(裕季)新しい靴に履き替え一歩出る なんでもできる気持ちになって
(青山みのり)新月の弥生の闇にためらいを吐き出すごとくさくら咲き初む
027:コメント(76〜100)
今泉洋子)コメントの字数制限二十字はあれやこれやと歌より難し
(黒崎聡美)コメントを上手にこなす小学生が夕方と夜ニュースに映る
030:財(76〜101)
(葉月きらら)財布から不意に出てきたプリクラと同じ笑顔になれない二人
(黒崎聡美)財産の話はどこか童話めきベビーリーフのサラダを食べる
今泉洋子)花買ひて軽き財布をはたくほどの贅沢をせり空澄みわたる
(翔子)老いた友訪ねる古道迷い道弁財天おわすりんどうの中
031:はずれ(76〜101)
(黒崎聡美)ポケットにはずれ車券をしのばせた男が歩く競輪場通り
今泉洋子)台風の予想はづれて二十年ぶりに閉めたる雨戸開けゆく
(村木美月)想うだけ想われてると限らない期待はずれの季節が過ぎる
032:猛(76〜102)
今泉洋子)脳味噌の滾る猛暑に過ぎりゆく秋老虎といふ言の葉ひとつ
(村木美月)ソーダー水の中ではじける泡のよう猛烈に今「好き。」が言いたい
(美亜)いにしえの絵画の天使は真っ白な猛禽類の羽ではばたく
033:夏(77〜101)
(畠山拓郎)気まぐれな天使が堕ちていくようにピーターパンの夏のバカンス
(白亜)伸ぶる手にあなたを捕らへてみたならば、どこまでも夏 麦わらぼうし
(黒崎聡美)また夏を遠ざけてゆく雨が降り行けないところばかりが増える
今泉洋子)夏至のひかり花に流れて合歓の木にしんと鎮もるわたしの孤独
(小春まりか)この恋が夏の代名詞になってきっと来年比べてしまう
(ワンコ山田)夏らしいことしたいよね八月の口癖で廻す白いパラソル
063:以上(52〜77)
真魚)履歴書に「以上」と書くとき肩の荷が半分下りたと思う錯覚
(畠山拓郎)以上でも以下でもなくて歌の友 かぼちゃの馬車はみどりのMAZDA
佐藤紀子)以上でも以下でもなくてささやかな身の丈ほどの淡きしあはせ
(青野ことり)「以上」って締め括られてそれ以上なにも言えない なにも見えない
064:刑(51〜77)
(はぼき)ぼんやりと車窓ながめて一人旅まるで流刑地への旅のよう
(円)磔刑にされた絵皿は照らされて金の縁のみ静かに光る
(村木美月)火遊びの罰なら仕方ないでしょう燃え尽きたならさよならの刑
066:きれい(51〜75)
佐藤紀子)「きれいね」と花を見せれば二歳児は小さな指でつつきて揺らす
(白亜)木漏れ日は陽の落ちこぼれ 知らぬまにきれいな嘘を赦してしまう
070:柿(51〜75)
真魚)宅配便義母から届く大箱の野菜のかげに干柿のぞく
(こはぎ)デザートの柿を頬張る屋上はひとりランチにやさしい甘さ
佐藤紀子)柿の実が夕陽を受けて輝けり今夜はぐつと寒くなりさう
(白亜)庭いぢり好みし祖母が残したる柿の実ぬちにやどる黄昏
(青野ことり)秋の日の窓辺に置いて暮れてゆく光に当てる柿色の夢
(秋月あまね)アパートの最上階の干し柿の紐がとってもカラフルである
(大島幸子)倦怠に炙りだされた情欲が照柿色の夕日に溶ける