題詠100首選歌集(その34)

        選歌集・その34


017:彼(101〜125)
(今泉洋子)夭折の友を想へば彼岸花不意打のごと咲き初めにけり
(白亜)右手から絵筆をそろりと解き放ちつかのま泳ぐ彼のてのひら
(ワンコ山田)彼女だと言われたっきり彼っぽいこと何も無いそれはそれでいい
036:少(76〜100)
(村木美月)泣き方も喜び方も大袈裟な母は日毎に少女になりて
(翔子)少しだけ赤い林檎の食卓を朝の光が避けて射しこむ
068:兄弟(52〜76) なし
069:視(53〜77)
佐藤紀子)背を伸ばし姿勢をただし見栄をはるエレベーターの監視カメラに
今泉洋子)霜月は既視感(デジャビュ)を誘ひ初時雨いつかのわれも君と見てゐた
071:得意(53〜77) 
(諏訪淑美)タレントが得意顔した饒舌がテレビの画面に増殖する夏
佐藤紀子)逆上がり出来た位で得意顔はしなくなりたり九歳の夏
(三沢左右)あやまたず子らや孫らの名を呼ばふ得意がほなるははそはの母
072:産(52〜76)
(牧童)微笑めばストレリチアに祝されて 産着の中の小さな命
(美亜)みずうみの畔(ほとり)に座して微笑めば産土神(うぶすながみ)が頬を撫でゆく
096:季節(26〜50)
(梅田啓子)自らの狷介、脆さ、愚かさを吐き出してよりはじまる季節
(海)ハイリスクノーリターンに生きてゆくどんな季節も黒タイツ履き
(コバライチ*キコ)紅き葉の舞い散る季節は新品のスニーカー履き大股で歩く
佐藤紀子季節風吹きはじめたる霜月にまだ色づかぬ銀杏舞ひ散る
(三沢左右)イヤホンの音さらさらと耳を衝き冬といふ名の季節始まる
097:証(26〜50)
佐藤紀子)旧友と並びて撮りし一枚は今年も元気で逢へたる証拠
098:濁(26〜50)
(梅田啓子)濁り酒ちちの遺影に置いてより 「なごり雪」 の歌またうたつてる
佐藤紀子)濁し手の白のやさしも有田焼からくり人形万寿姫さま 
100:止(26〜50)
(希屋の浦)立ち止まるわたしを一顧だにせずに季節はわたしを通り過ぎてく
(コバライチ*キコ)秋色に染まりし落ち葉降り注ぐ静止画像のやうな二人に
(三沢左右)夕暮れの街を歩けば人多し 立ち止まること出来ぬ夕暮れ