題詠100首選歌集(その35)

            選歌集・その35


019:同じ(101〜125)
(白亜)同じ道行くことはなき友の背に緋色のひかりの流れゆく見ゆ
(青山みのり)ひとつにはなれないけれど手をつなぎ同じ匂いの潮風の中
038:イエス(76〜100)
(白亜)初時雨 イエスタデイズの旋律は窓のふるへにしづやかに揺る
(村木美月)イエスノーどちらでもない返信は無邪気なふりの邪気がいっぱい
(三沢左右)はにかんでイエスと言った友達の声高らかに響く教室
044:日本(76〜100)
(牧童)カタカナの名の花は増え菊は消え 日本の墓がざわめく彼岸
(睡蓮。)団体の名前の頭に「日本」などつけて天下を取ってるつもり
047:繋(77〜101)
(miki)繋累(けいるい)になりたくないと思いつも 我老いてゆく心細さよ
(美亜)たぶんまだ繋がるだろうと思いつつ見つめるだけの携帯電話
(珠弾)削り節くらいで繋ぎとめられるなら苦労はしない猫缶を買う
073:史(54〜78)
佐藤紀子)将来はこういう風に生きたいと斎藤史の自在羨しむ
(今泉洋子)つゆしぐれ信濃に降れば斎藤史のひたくれなゐの一世を憶ふ
074:ワルツ(52〜76)
佐藤紀子不整脈をワルツのやうだと笑ひをり気にせぬふりが上手な友は
(三沢左右)顔しかめ漢字書き取りする君の鉛筆の音ワルツのリズム
075:良(53〜77)
(今泉洋子)良き歌の雰囲気纏ひ歌会より帰る夕べに二重虹立つ
076:納(51〜76)
佐藤紀子)捨てられずあれこれ溜る納戸なり タイムマシンの機能も兼ねる
(三沢左右)見納めと思ふ雨夜の桜花 傘くるくると少し傾く
(牧童)納骨はわずかな骨と思い出と 散るひとひら山茶花と雨
(円)納得はできないままに頷けばほろほろと赤い木の実こぼれる
(秋月あまね)納めたり開いたりする習わしに日本の良さがあるかもしれぬ
(村木美月)納得をするまで泣ける場所でさえ持たぬ私は泣き虫ピエロ
077:うっすら(51〜75)
(三沢左右)名画座をうっすら染めて白雪の降り積む街を車よぎれり
(今泉洋子)君の手にうつすら夕陽降りてゐて恥づかしさうな海岸通り
080:修(51〜75)
(大島幸子)修羅道が映る四角い窓を閉め今日は一日眠っていたい
(美亜)おそらくはこれも修行と諦めて夫(つま)のわがまま淡々と聞く