題詠100首選歌集(その36)

          選歌集・その36


042:若(76〜100) 
(村木美月)もう若くないからという理由にて遠慮しながら引くアイライン
(ワンコ山田)箱舟に乗る人類を募ります<恋愛ができる方若干名>
052:ダブル(77〜101)
(美亜)いつかまた一人になる日の練習にダブルベッドに大の字で寝る
078:師(52〜76)
佐藤紀子)薬剤師になりて優しく応対す ピンクレディーの好きな児なりき
(光本博)千円で散髪をする理容師の給与がいくらなのか気になる
(たえなかすず)Tシャツとハーフパンツとサンダルで夏の講師は今日も独り身
079:悪(52〜78)
佐藤紀子)どの人が悪者とすぐ区別つく子供映画の簡潔がよし
(津野桂)悪阻さえも悦びとして身篭ればおんなの躰に未来が巣食う
(翔子)恋という悪意の連鎖撃ち殺す銃をください満月までに
081:自分(51〜76)
(大島幸子)ぬるま湯の中で自分の輪郭がほどけて溶ける夢をみている
(今泉洋子)自分さへ信じられずに哀しみはふいに木枯らしの中から来たる
(ちょろ玉)面接で封じられたる一人称「自分」をほどく夕空なりき
082:柔(51〜76)
(美亜)柔らかな心抱いて眠る子の明日(あした)も晴れでありますように
084:左(52〜77)
佐藤紀子)指輪の跡くつきり残る左手の薬指より虚しさが来る
ウクレレ)体温計を左の脇に挟むときすこし微熱を期待している
(とおと)左手に右手を合はせねむる夜の窓辺に寄する潮騒のおと
085:歯(51〜75)
佐藤紀子)歯磨きで磨けば銀のスプーンに私の顔が〈おかめ〉に映る
(椋)洗面所コップに並ぶ歯ブラシに はにかみながら手を伸ばす朝
(津野桂)歯並びをほめられている教室で2度目のキスを思い出してる
(村木美月)約束をしないずるさを奥歯にて噛み砕きつつ飲み込めずいる
(ちょろ玉)ぼろぼろとこぼれ落ちゆく夢ばかり吾には歯とは何の暗示や
086:ぼんやり(51〜76)
(湯山昌樹)ぼんやりと見えるはわれのゴールなるか 五十歳となる今日のこの朝
(椋)ぼんやりと君の横顔眺めてる 珈琲の香り幸せな午後
(翔子)電飾がそこここ灯る一人旅星もぼんやり遠のいてゆく
ウクレレ)ぼんやりとした古時計ひっそりと過去を未来に連れてきており
(穂ノ木芽央)綿菓子の雲の流れる日曜日ひねもすぼんやりあのひとを思ふ
087:餅(51〜76)
(白亜)親族と餅つきをして新年を迎ふる友の便りあり 晴れ
(穂ノ木芽央)二度寝する煎餅布団に閉ぢこめしぬくもり死守する今日は快晴