2013題詠100首百人一首

     2013年題詠100首百人一首


001:新 
(希屋の浦)新しい希望を胸に吹き込んで目覚める朝はメヌエット弾く
002:甘 
(音波)待つことが間違いだったと知ったいまパックのいちごミルクが甘い
003:各
(kei)たくさんの秋が次々乗ってくる夕日色した各駅停車
004:やがて
(詩月めぐ)雷鳴が轟きやがて雪が降るひとりの夜はつんつん凍みる
005:叫
(七色小鳥)叫ばない花が次々枯れてゆくあいされやすいひとに抱かれて
006:券
(とおと)うす紅のハズレ馬券を降らしめてぼくの天使は今日も不機嫌
007:別
(砂乃)送別会「またね」と言いし同僚の葬儀に「またね」が無いことを知る
008:瞬
(廣珍堂)瞬きを ゆつくりとする 君のゐて フレアスカートは 春風のごと
009:テーブル
(白亜)さくらんぼジャムひと瓶のいろ浮かべ春のテーブルひろびろとあり
010:賞
(大島幸子)良い子でも悪い子でもない僕達の賞罰欄は空白のまま
011:習
(夏樹かのこ)習いごと漬けの鞄をからっぽにして朝焼けを詰め込んでやる
012:わずか
(鮎美)哀れみとわづかばかりの憎しみをボウルに練りてゐる木曜日
013:極
(しほ)コンバースの白きバッシュで下りていく極楽寺坂の海までの道
014:更
(睡蓮。)トラウマを更新させる同窓会現在(いま)の幸せ見せつけに行く
015:吐
(由子)本音吐く介護ブログを読むことで 負い目消してる長女のわたし
016:仕事
(久野はすみ)百の歌すべてをうたい終えるまでもののけたちは待つのが仕事
017:彼
(不孤不思議)湧き水に馬と並びて水を飲む峠はすでに彼誰の時
018:闘
(こすぎ)哀しみと闘うことをあきらめてブーツの先で小石蹴飛ばす
019:同じ
(円)弟と同じ顔した曾祖父は戦場に子を二人送れり
020:嘆
(光本博)感嘆符つけるでもなき日常に饂飩三玉買ひ忘れたり!
021:仲
(葉月きらら)キスをする仲ではないし髪の毛を撫でられただけそれだけの事
022:梨
(キョースケ)梨をむくきみの手しろし微笑みの中にあるのは別れの予感
023:不思議
(莢)渡る鳥だけが不思議と知覚する郷愁に似た風の信号
024:妙
(柳原恵津子)神妙な顔で行き先を言い合って庭へと駈けてゆきたり子らは
025:滅
(山本左足)人間に進化しきれていないまま絶滅危惧種として生きてゆく
026:期
(はぜ子)思春期の彼のズボンのポケットの中のテイッシュに蟠る恋
027:コメント
(梅田啓子)会ひしことなき人なれどコメントがわれの心を見抜いてゐたり
028:幾
(綾倉由紀)幾何学の補助線を引く鉛筆の先を削っているような月
029:逃
(浅草大将)シネマお茶そんな一線こゆるぎのいっそ小田急で逃げむとぞ思ふ
030:財
(新藤ゆゆ)いつまでも使い慣れないお財布と潮のかおりを持て余す午後
031:はずれ
(矢野理々座)空くじはなしと言うけど7等のポケットティッシュはやっぱりはずれ
032:猛
(秋月あまね)猛者たちが羊の皮を被りつつかき氷など販ぐ基地祭
033:夏
(泳二)銀色の自転車夏を乗せていけ雨に降られて錆びついていけ
034:勢
(黒崎聡美)店員の恋の話が満ちてきて勢いで買う雪見だいふく
035:後悔
(お気楽堂)めずらしく己の性(さが)を後悔し素直に詫びるクリスマス・イブ
036:少
(あわい)告げられた言葉いくつも嘘にして置き去りになる少女の日々よ
037:恨
(映子)恨まれてみたい気もするいつまでもいい人だけじゃオモシロクナイ
038:イエス
(鳥羽省三)荒野往くイエスの如き眼差しで打者のイチロー睨む岩隈
039:銃
(五十嵐きよみ)銃よりも楽器を選びたかったかもしれない少年兵の指先
040:誇
(ひろ子)十八の子をもつ今にわが夫(つま)の職人ゆへの不器用誇る
041:カステラ
(miki)ほんのりと甘い郷愁カステラに 重ねて偲ぶ母の面影
042:若
(哉村哉子)ランコムのコンシーラーの銀色が若くないって呟いている
043:慣
(村木美月)泣きそうな夜に限っていないひと受身の愛に慣らされていく
044:日本
(ひじり純子)「日本中が感動した」と聞くたびにここは日本でないと思えり
045:喋
(ワンコ山田)いつもよりお喋りな柄のハンカチで今日の無口な私を飾る 
046:間
(こはぎ)教室に並ぶ机の間隔は本音と嘘をうまく隔てる
047:繋
(さわか)携帯の番号を消し繋がれた鎖を徐々にはずす行程
048:アルプス
(横雲)アルプスの父と呼ばるるウェストンの眼に賑わえる山の初夏(はつなつ)
049:括
(船坂真桜)回覧のバインダーにて括られしチラシは春を含みて重く
050:互
(鈴木麦太朗)お互いに出不精ですねと言い合うよ缶コーヒーと缶ビールとは
051:般
(女郎花)ふり返る花野の雨に濡れながら<般若>を超えて<泥眼>に立つ
052:ダブル
(美亜)いつかまた一人になる日の練習にダブルベッドに大の字で寝る
053:受
(桃子)部活夢受験音楽読んだ本 語りつくしたね恋だけ避けて
054:商
(裕季)「ショッピングモール」にはない懐かしさ「商店街」のレトロな響き
055:駄目
今泉洋子)駄目なもの駄目と言へないこの性(さが)が子供も猫も駄目にしてゐる
056:善
(莢豆)アマゾンの部族の仮面に似てますねヒトの善意って言葉も文字も
057:衰
(諏訪淑美)衰えを感じる日々ではないけれどロコモに近づく兆しが怖い
058:秀
(紫苑)縦糸をくぐりゆく梭は魚(いを)のごと秀つ手(ほつて)をはなれ自在におよぐ
059:永遠
(みずき)永遠と言ふ囁きの甘やかな日日を攫ひて荒東風(あらこち)の吹く
060:何
(風橋平)体から何度も虹が出て行って駅は峠にいつでもひとり
061:獣
(槐)結ばれて獣となりし春の日を手繰りて見上ぐ秋の星空
062:氏
(畠山拓郎)初代なる野武士のような祖父逝きて平氏のように公家を真似たり
063:以上
(遥)これ以上攻めてはダメとわかっても勝手に指が言葉を紡ぐ
064:刑
(はぼき)ぼんやりと車窓ながめて一人旅まるで流刑地への旅のよう
065:投
(西村湯呑)ぴいぴいと投げやりに鳴く炊飯器30時間の保温の果てに
066:きれい
(藻上旅人)ふるさとできれいになったきみをみたあしたはそっとこのまちをでる
067:闇
(ロクエヒロアキ)夕闇に野菜スープの浸されてひとりもひとのいないキッチン
068:兄弟
真魚)大まぐろ解体ショーのBGM「兄弟船」が流れる鳥羽市
069:視
(芳立)井のなかの蛙が視野をひろげれば魚眼レンズに世界がゆがむ
070:柿
(新井蜜)桃畑に青き柿の実落ちてゐて神の不在はずつと前から
071:得意
(シュンイチ)曲がらないカーブを得意げに投げるあれがぼくらの原点だった
072:産
(青山みのり)いましがた産み落とされた恐竜のたまごのように遠き落陽
073:史
(原田 町)歴史的大敗という見出し記事また読まされて無気力の夏
074:ワルツ
佐藤紀子不整脈をワルツのやうだと笑ひをり気にせぬふりが上手な友は
075:良
(西中眞二郎)良く笑う少女の如き車掌居て丹後の旅の楽しくなりぬ
076:納
(牧童)納骨はわずかな骨と思い出と 散るひとひら山茶花と雨
077:うっすら
(三沢左右)名画座をうっすら染めて白雪の降り積む街を車よぎれり
078:師
(たえなかすず)Tシャツとハーフパンツとサンダルで夏の講師は今日も独り身
079:悪
兵站戦線)ちよい悪のイメージづくり雪駄履く夏はすぐそこ素足の季節
080:修
(有櫛由之)少年は阿修羅のごとき憂ひして蜻蛉の竿にあゆみよりたり
081:自分
(海)向いてないながらも母親業をする自分のために買うカーネーション
082:柔
(中村成志)柔肌の火照りの紅を朱鷺色と口にのせれば風がながれた
083:霞
(流川透明)霞みゆく記憶は時に優しくてあの日の服も今は着られる
084:左
(葵の助)雨のたび左肩だけ濡れているユイの頭上の傘は日替わり
085:歯
(千束)いつだって移りゆくもの追いかけて齲歯に気づかぬふりをしている
086:ぼんやり
(美穂)ぼんやりとわたしのことなど想い出す人もいるかもしれない月夜
087:餅
(穂ノ木芽央)二度寝する煎餅布団に閉ぢこめしぬくもり死守する今日は快晴
088:弱
(じゃこ)結界を張るよう設置したけれどホウ酸ダンゴの効き目が弱い
089:出口
(椋)改札の出口に君の姿待ち 何度も髪を手で整える
090:唯
(青野ことり)どこかでは始まりどこかで終わるだろう 唯一無二の命がきょうも
091:鯨
(津野桂)公園の鯨は砂に埋もれて砂の潮吹く風はむらさき
092:局
(コバライチ*キコ)郵便局の角を曲がればこの秋も金木犀の香の流れくる
093:ドア
(橋田 蕗)子がねだるごとき目をしてあけてみる展示新車の助手席のドア
094:衆
(紙屑)黄緑の公衆電話があったこと忘れて握る白いiPhone
095:例
(湯山昌樹)例題に同僚の名をお借りして さあ生徒たち テストはこれから
096:季節
(翔子)黒枠のはがき舞い込む季節には裏作物の豆の花咲く
097:証
(はこべ)社員証首からさげて昼休みビルの谷間の一景となる
098:濁
ウクレレ)怪獣の名に欠かせない濁音のゴジラガメラ、バルタン星人
099:文
(辺波悠詠)君が書く小文字のエルの真ん中に糸を通して首に飾ろう
100:止
(ちょろ玉)我の知らない我になりたしゆうぐれのたとえば誰かの波止場としての