題詠100首選歌集(その1)

 今年も題詠100首(五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の会)がはじまった。2月から11月までの期間に、題の順に各自が投稿するというシステムである。私も参加して10年目になるのだが、例年通り、私の投稿が済んだ題につき勝手な選歌を進め、終わったところで百人一首を作ることにしたいと思っている。全くの気まぐれで、何の権威もない無責任な選歌だが、私の遊び心に免じてお赦し頂きたいと思う。なお、対象が25首以上貯まった題から選歌し、それが10題貯まったら選歌集として掲載する方針なのだが、最初と最後はそれでは窮屈なので、例年その方針の例外扱いにしている。(題の後の数字は、主催者のブログにトラックバックの件数として表示されている数字なのだが、誤投稿や2重投稿もあるので、必ずしも正確な投稿数とは限らない。)


            選歌集・その1

001:咲(1〜72)
(天国ななお)咲き初める音をたよりに薄闇をすすんで白き湖にたつ
(ひじり純子)一花を咲かせてみせると嘯いてみても種さえ見つからぬまま
(こと葉)まだ咲かぬ花の香ありて風のまま微笑んでみる二月一日
(智理北杜)「咲くら」という酒のおいしい居酒屋の店主は妻と同窓である。
(秋月あまね)懊悩の核心部分は伏せおいて軽い話に花を咲かせる
(はこべ)訃報ききひとり歩める帰り道通る路辺に蝋梅の咲く
ウクレレ)咲いたことにした絵日記の朝顔のさみどり光る「ひ」の字の葉っぱ
(じゃみぃ)何年も嫌な記憶とリンクする桜咲く頃よく雨が降る
002:飲(1〜64)
(ひじり純子)満足の打席を終えた少年がベンチで水を飲む喉仏
(シュンイチ)色あせる背番号1 分けあって飲んだコーラの甘すぎた夏
(紫苑)くれなゐにけぶる夕べを目にいだき飲みたる酒はほのかにあまし
(ひろ子)何となく桜桃沈むマティーニを眺めてみたし 春浅き夜
(原田 町)コップ半分のビールさえも飲み余し地区の集いにうつうつと居る
(五十嵐きよみ)老いはもう身近にひそむ(風邪薬飲んだかどうかわからなくなる)
ウクレレ)水色の花火を月が飲み干してしあわせだけの夜がひろがる
003:育(1〜57)
(浅草大将)育休を社長自身が取得して一人会社をつぶした話
(シュンイチ)愛すべき無知をひろげてぼくたちは育ちざかりの青春を抱く
(美穂)心配の種をひと粒たずさえてスポック博士の育児書の中
(中村成志)ぬくもりを育みながら駅に着くきみの左手わたしの右手
(諏訪淑美)子育ても孫育てももう終えましたも一度燃えよか自分育てに
(五十嵐きよみ)お題から言葉が育っていかなくて詠みきる前の一首を捨てる
(原田 町)教育ママと笑われしこと遥かにて蛙は蛙の息子も不惑
004:瓶(1〜51)
(葵の助)友達になると思ってカマキリとバッタを瓶に入れた子が泣く
(葉月きらら)瓶詰の底に溜まったジャムのよう甘く届かぬ恋をしている
(はこべ)瓶にさす椿一輪赤く咲き冬日の光輝いており
ウクレレ)空き瓶にやさしさいっぱい詰め込んで海を信じて君へ贈ろう
(映子)初恋も雪も金魚も入れておくチェックの蓋のジャムの空き瓶
(由子)コンビニにあること嬉し亡き父と祝いたき日のニッカ角瓶
(詩月めぐ)夏色の硝子の瓶に閉じ込めた君の笑顔と白い貝殻
005:返事(1〜40)
(浅草大将)これが君の最後の返事なのだろう宛先不明でもどった手紙
(御糸さち)返事するのをためらってストローが氷の序列を乱す二時半
(こはぎ)だいすきにだいすきと返事することがいつ頃からか終わりの合図
(とみいえひろこ)返事待たず抱(いだ)かれている冬空は夜ごと藍色垂らしつづける
(三船真智子)気の利いた言葉は邪魔なだけだったうなずくだけでよかった返事
ウクレレ)北国の友の返事の暖かき手書きの文字とうさぎの切手