題詠100首選歌集(その2)

           選歌集・その2

006:員(1〜42) なし
007:快(1〜41)
(美穂)まひるまの快速電車は乗客に催眠術をかけて眠らす
(葉月きらら)快晴と言えぬ心に傘を差し傷つく準備もうできている
(中村成志)雪の日は土曜日が良く寝床から快速線の過ぎる音聞く
008:原(1〜39)
(ひじり純子)母を待つ祖母の家での西向きの夕日の窓が原風景である
(美穂)予報士が眉間にしわを寄せている大雪原の朝が来そうで
(文乃)原発と汚染が引き裂く父と子の時間をメールで繋ぎ合わせる
009:いずれ(1〜36)
(ひろ子)いたづらに切ないずれの重なりて来るはずのない絵葉書を待つ
010:倒 (1〜36)
(辺波悠詠)先週の末から倒れたままでいるペットボトルに差し込む朝日
(ひろ子)貸倒損失(かしだおれそんしつ)として計上す汝(な)への届かぬ思ひのたけを
011:錆(1〜30)
(紫苑)そのふちに錆朱のかげのほの見えて眠れる釉のはつかにふるへ
(こはぎ)錆びてゆくこころもあると知っていてあなたは甘い雨を降らせる
(葵の助)やわらかにパステル纏えば錆ついたすべてが風に溶けてゆく春
(中西なおみ)から風をつれて乗り込む列車には錆の匂いをさせるひとびと
(有櫛由之)あけなづむ藍錆色を背に月をほろびの女王として慕ひたり
(ひろ子)叔母の着し藍錆(あいさび)色の訪問着襦袢に直せばわれの身に合ふ
(映子)天までと空を蹴飛ばすブランコの錆のにおいの手のひらの中
012:延(1〜30)
(天野うずめ)お空からポッキー降ってこないかな 運動会は雨天順延
(月夜野みかん)くしゃくしゃに髪なでられてあっさりと延長戦に入る片恋
013:実(1〜29)
(はこべ)サルスベリ葉は落ちたれど野鳥らが実を食む音をプチプチと聞く
014:壇(1〜27)
(葉月きらら) 繊細なピンク似合わぬ年になり花壇だけでも染める雛菊
015:艶(1〜25)
(秋月あまね)タウン誌のカットモデルは艶やかでどれかひとりはAV女優
(葵の助)5年目の共同作業 夫婦して艶出しワックス塗るマイホーム
(遥)唯一の恋の思い出 語るうち老女の瞳 艶めいてくる
(横雲)老いてなほ艷を求むる男ゐてかれゆく野べに吾亦紅咲く