題詠100首選歌集(その4)

         選歌集・その4


003:育(58〜82)
(椋)冬の陽がガラスの壜に溶け込んで ヒヤシンスの花ほんのり育つ
(とおと) 飼育さるる者たる矜持天鵞絨(びろうど)の細き首輪は汚さずに食ぶ
004:瓶(52〜76)
(大島幸子)旬ものの恋、フレッシュな瓶詰めにしました。(賞味期限:3年)
(たえなかすず)また今日も来ないあなたを待っていてコーラの瓶のあの日の重さ
(じゃこ) 孫という孫を電話で呼び寄せる 鶴瓶が町にやってくるのだ
(キョースケ)空き瓶がころがる浜辺ぼくたちは海を眺める生き物だから
008:原(40〜65)
(@貴)つかのまの原風景をもてぬまま紅茶にうつる夕日すすれり
ウクレレ)原っぱで大の字になり寝そべれば空の毛布がふわりと掛かる
(原田 町)原発の再稼動するを拒みつつスカイツリーの夜景楽しむ
(五十嵐きよみ)原発ゼロ、即刻ゼロの訴えに沸く 降りしきる雪の新宿
(湯山昌樹)草原でふと既視感を覚えたり わが前世は何であったか
009:いずれ(37〜61)
(@貴)「りそう」とは意志のひびきよ氷上の選手はいづれも前へ舞ひたり
(たえなかすず)地平線よりも水平線が好き なにかしらこの心地よいずれ
(星乃咲月)この雨も僕の涙もいずれまた青い海へと流れ着く水
(原田 町)いずれまた手を振りてより三十年きみの訃報の小さく載りぬ
(はぜ子)錆びついた線路の上でいずれ来る始発に臨む空、縹色
(湯山昌樹)いずれまた遠からぬ先に世話になる そんな気がする街の時計屋
023:保(1〜26)
(ほし)保健室のベッドで昼のチャイム聞く焼きそばパンは売り切れるだらう
024:維(1〜26)
(横雲)切子なる葡萄酒杯(ワイングラス)にゆらぎ聞く維納(ウィーン)の森の香を懐かしむ
(映子)飲めばすぐ龍馬西郷勝と化す語りつくせぬ維新の男
(中西なおみ)生と死のかなしき推移乗る風に遊ばれている蝉の脱けがら
025:がっかり(1〜25)
(ほし)がつかりの顔文字のやうな表情が常となりたる新人われは
(文乃)Wikipediaの「世界三大がっかり」のページを子どもに見せられており
026:応(1〜25)
(天野うずめ)コンビニで買ったおにぎり並べられトラブル対応深夜も続く
(文乃)きょうだいで育つ豊かさ冗談と笑いの応酬止まぬ食卓
028:塗(1〜25)
(ほし)塗箸の先の方しか濡れてない品良き人と真向ひに座す
(美穂)寒い日が続き外出ままならぬ姑(はは)に届ける大人の塗り絵
(@貴)遺品整理のみのひとひよ輪郭のしかと描かれし塗り絵をもらふ
029:スープ(1〜25)
(シュンイチ)ぼくなりにこころをこめたプロポーズ「きみのオニオンスープが飲みたい」
(@貴)たれからも善く想はれてゐたき夜のセロリスープのひとくちの沁む