題詠100首選歌集(その7)

         選歌集・その7


005:返事(67〜91)
(大島幸子)「おはよう」とひとこときりの返事すら一日分のエナジーになる
(みち。)ふりそそぐ返事のような花びらを踏みつけ春を黙らせてゆく
021:折(26〜50)
(キョースケ)さよならとふたりで作った折り鶴をベッドにおいて旅に出て行く
(原田 町)五百円の折詰くらいでちょうど良い年金暮らしのわれらが花見
(湯山昌樹)折に触れ思い出さるる生徒あり あの子は今も小説書くや
(五十嵐きよみ)折り返し地点ですらもはるか先 題詠の歌をコツコツと詠む
(じゃこ)折りたたみ傘しか武器がないけれど雨さえ降れば君を誘える
(ひろ子)父危篤の知らせに急ぎ来し夫(つま)の手に提げられし棟上げの折詰(おり)
035:因(1〜25)
(紫苑)風媒花いくつ散りかふ夏さかりわれ放埓の因子もちたり
(天野うずめ)原因がわからないけどとりあえず「ごめんなさい」と頭を下げる
(シュンイチ)悲しみを因数分解してみたら きみとぼくとのかけ算だった
(@貴)ヴェランダに悪魔の影のごときシャツ何の因果かわれを見張れり
036:ふわり(1〜25)
(シュンイチ)どれくらい待てばいいのかわからずにふわりと浮かぶ雲を見ている
(ほし)ものいひのふはりとしたるをとこのこたたみのへりをさけてあゆみぬ
(文乃)側転しふわりとマットに降り立つ子 少年の日の脚の細さよ
037:宴(1〜25)
(シュンイチ)宴会の途中ではぐれたたましいを連れ戻すため飲むスプモーニ
(葵の助)うっとりと粉ジュース飲む秘密基地あれは小さな宴だったね
(ひじり純子)木の枝の中の命がむくむくと春の宴の準備などする
038:華(1〜25)
(シュンイチ)時々は帰りたい場所 なんて思う 南校舎と華やかな日々
(こはぎ)華やかさなんてないけど会う時は少し広がるスカートで行く
(文乃)大人へと少し近づく おかっぱの髪から覗く華奢な首筋
(葉月きらら)人見知り引っ込み思案は華やかな服で隠して春を迎える
040:跡(1〜25)
(辺波悠詠)クセのある筆跡に恋をしたのです、君のノートを覗いたあの日
(横雲)君行きし跡の白浪消ゆるまで見送る岬春の風荒る
041:一生(1〜25)
(秋月あまね)一生に一度あるかの震災をすでに二回も見聞きしている
(中村成志)風が吹くたびに裏見せまた返る葛葉のような一生だろう
042:尊(1〜25)
(辺波悠詠)自尊心とかいう過負荷の生ゴミを発酵させて燻らせている
(秋月あまね)尊いを命と結びつけるにはまだためらいを持つ青年期
(葵の助)両親を何も疑うこともなく尊敬できた過去がぼやける
(中村成志)三尊像やすらう初夏の本堂はドイツワインのカーヴにも似て
043:ヤフー(1〜25)
(辺波悠詠)青春を捧げたバンドのボーカルの訃報をヤフーの一面で知る