題詠100首選歌集(その8)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(年初に100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して10年目になる。私の投稿を先行させつつ、例年「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。
 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。
         

         選歌集・その8


004:瓶(77〜101)
(花夢)なけなしのわたしらしさをからっぽの瓶にからんころんと落とす
(青野ことり)丁寧に洗ったマーマレイドの瓶 あといくつ並べたら夏が来る
(藤野唯)あなたへの気持ちは全部捨てたのに残った瓶のたしかな重さ
(ネコミヤキリコ)ラムネ瓶ならべてくらす老人のねむってばかりいる日曜日
(廣珍堂)蒼深きコーラの瓶を透かしたる少年の夏に水滴の落つ
006:員(68〜92)
(藤野唯)コンビニの店員も会話した人に数えてほころびだす新年度
佐藤紀子)員数を揃へるためと知りつつも誘ひくれればすぐに参加す
(はぼき)どことなく秘密の香りただよわせ「会員制」は淫靡なコトバ
007:快(67〜91)
(青野ことり)きた電車どれに乗ってもいいのよと快速急行ができて言えない
(廣珍堂)雨のなか新快速が通過して自販機ごとり珈琲を吐く
佐藤紀子)「快心のできばえです」と贈らるる友の焼きたるコーヒーカップ
(深影コトハ)快晴の空に手足を放り投げ カミサマを捨てるのはこんな日
008:原(66〜91)
(長月ミカ) 雪原の足跡よりも早く消ゆ 君乗る艦(ふね)の波跡寂し
(青野ことり)気の早い菜の花ぽつりぽつり咲く小川野原で犬がころがる
(こと葉)思い出を地図になぞれば南風原はえばる)や東風平(こちんだ)があり風を奏でる
(紙屑)次はどのルートを行こう空白の原稿用紙に書く交差点
(廣珍堂)冠をシロツメクサで編んでいた原っぱに立つ小さい建て売り
(はぼき)高原の風両肺にたくわえて優美なことば紡がむとする
022:関東(26〜50)
(中村成志)大根も葱も土から首を出し関東平野は山を持たない
(原田 町)関東の海無き県に住みなれて色濃きうどんの汁を飲みほす
(湯山昌樹)静岡の端に住まいて天候も東海よりは関東に似る
(小原更子)終電で夜な夜な帰るわが夫は関東労務層の一粒
(民谷柚子)最終ののぞみできみが来る 明日の関東地方は夏日の予報
044:発(1〜25)
(@貴)ひととせのあゆみおもへり菜の花の発芽のとほくけふ震災日
(葉月きらら)消せないでいた番号の発信を酔った勢いで押したくなる夜
045:桑(1〜25)
(紫苑)うらなりの桑のみのりの酸きを食む音なき街に午後の陽あはし
(遥)さわさわと桑の葉を食む蚕たち幼き日々はのどかに暮れる
(映子)桑の実の色の赤きに魅せられて蚕になりし人在ると云う
047:持(1〜25)
(紫苑)くちびるはゆるさぬといふ矜持あり仇恋おほきをんなと呼ばれ
(美穂)持ちきれぬほどに野菜を買い込んだ産直市場は今日もにぎわう
(葵の助)聞き飽きた彼の持論が指先で膝に描かせる今日はうずまき
048:センター(1〜25)
(美穂)ショッピングセンター建設予定地の木々は消え失せ北寄りの風
(葵の助)3歳児検診を終え子とはもう来ないであろう保健センター
(キョースケ)年ごとにセンター試験の思い出も遠くになって平坦な日々
049:岬(1〜25)
(紫苑) 潮騒の香のちかぢかと匂ひきて吾を待つひとは岬のむかう
(美穂)こうなごの漁を待つ船見下ろせば羽豆の岬に春の風吹く
(遥)身を投げる人の多さで名の知れた岬に立てばどこまでも青
(エクセレント安田) 何時の日か 戻ってくると 信じたい ☭四島(しま)陰見ゆる 納沙布岬
(中村成志)横揺れの連絡船は波をひき岬の裾を洗う菜の花