題詠100首選歌集(その10)

          選歌集・その10


002:飲(90〜114)
(廣珍堂)とんこつのスープをぐひと飲む真昼背中から来る風に乗つかる
佐藤紀子)氷砂糖たつぷり入れて仕込みたる苺酒とろり今が飲み頃
(はぼき)飲み込んだ言葉が胸につかえてるやはりあの時言えばよかった
003:育(83〜107)
(ぼんぼり)面倒な人ばかり好きになりがちで育ち盛りの胸よ膨らめ
(梅田啓子)育つとは巣立つことなり子の声を耳とがらせて思い出しおり
(深影コトハ)あれは多分ファウルを告げる笛の音で2度目のキスは体育倉庫
佐藤紀子)育児書に日光浴が推されゐしわが子育ての日々はるかなり
(はぼき)生きるため闘っている保育器の中の生命の弱さと強さ
026:応(26〜50) 
(諏訪淑美)応援の席にミニスカガール居て中継カメラの視線が彷徨う
佐藤紀子)ふくらめる桜のつぼみ春の陽に応へて今日は開きそめたり
(五十嵐きよみ)はっきりと肯定すればいいものをまた「一応」と答えてしまう
027:炎(26〜51)
(中村成志)煙突の先の炎のように咲く白木蓮のもったり具合
(コバライチ*キコ)陽炎の立てば世界の根っこから震え始めるやうな海原
佐藤紀子) 晴れ渡る夏空のもとハイウエイ―の行く手に立ちて陽炎揺れる
(ひろ子)あまざかる鄙の里なる山間(やまあひ)に炎(ほむら)立つごと朝日の昇る
028:塗(26〜51)
(永乃ゆち)口紅を塗り直したらもう二度と振り返らない 春が来ている
(中西なおみ)みずたまやしましま模様のちゅうりっぷ あの子の塗り絵虹が住んでる
佐藤紀子)壁に塗るペンキ買ひきて一カ月まだ手つかずに物置にあり
(五十嵐きよみ)塗り残しばかりがめだつ自画像を描きながら日々暮らしています
(梅田啓子)塗り箸にとろろを食みているような ひとりのひとひをもてあましいる
029:スープ(26〜50)
佐藤紀子)スープにも桜はなびら浮かべたりわがキッチンのソパ・プリマベラ
030:噴(26〜50)
(中西なおみ)重力にさからう遊び噴水の水あきらめの線を描いて
佐藤紀子)噴水が吹きだす形そのままに凍りつきたり零下十二度
(湯山昌樹)富士山の麓に住めどこの山が火を噴くことが想像できず
(五十嵐きよみ)砂漠やら噴火口やら映し出す家電売り場の大型テレビ
050:頻(1〜25)
(美穂)頻繁に自衛隊機の飛んでゆく空を見上げた震災の頃
053:藍(1〜25)
(横雲)おほてらの七堂伽藍かぜわたりつきかげしたひ八重桜ちる
(美穂)藍染めの浴衣のなじむ着心地を確かめたなら広がる花火
(映子)群青に少し黒さす本藍のインクで今もきみの名を書く
(文乃)老店主と歩む月日が風格となる藍染めの印半纏
(葉月きらら)背伸びして選ぶ浴衣の藍色と初めての紅十七の夏
(@貴)藍子とふ娘(こ)を忘れえず幾たびも春むかへたり ジーンズたたむ
054:照(1〜25)
(美穂)窓際のベッドは月に照らされて浄化されゆくような微睡み
(映子)きみの居ぬこの部屋にまだひとり居て火照る思いの膝を抱える
(キョースケ)パラソルと照る日でつくる影連れてあなたに会いに行く夏の午後