題詠100首選歌集(その11)

             選歌集・その11

014:壇(54〜78)
佐藤紀子) 仏壇を置かぬ我が家は本棚に父母の位牌と写真を祀る
(梅田啓子)しあわせの残像として今もあり とりどりのはな咲きいし花壇
015:艶(51〜75)
(コバライチ*キコ)艶消しの銀の指輪を陽にかざし在りし日の夢さがしてみたり
(はぼき)艶消しの白い塗料を薄く塗る下の木目を潰さぬように
(史之春風)艶のあるワニスの匂い(うつむいて廊下を駈けた時代があった)
031:栗(26〜50)
(原田 町)ただいちど団栗パンを食べしこと記憶の隅の苦き戦後よ
(諏訪淑美)姉逝きて栗の実はもう届かない年ごとに減る秋の楽しみ
(五十嵐きよみ)この時季になぜかこの題 筍のあくを抜く間に詠む「栗」の歌
(蓮野 唯)思い出の栗の花の香(か)濃密に重ねた肌と穏やかな日々
(はぼき)焼き栗がこんなに似合う街だとは思わなかった年末のパリ
051:たいせつ(1〜25)
(辺波悠詠)おつかい中 籠いっぱいの「たいせつ」を抱えた少女がぺこりとお辞儀
052:戒(1〜26)
(キョースケ)訓戒を長々と垂れる役員に苛つく朝がひときわ暑い
(葉月きらら)戒めの為に切った髪の毛がくるりとはねて恋したくなる
(原田 町)善光寺戒壇のなか極楽の錠前もとめ暗闇めぐる
055:芸術(1〜25)
(天野うずめ)芸術家みたいなポーズを決めてみる 掃除してない部屋を眺めて
(葵の助)残念なことに芸術ではなくてうちの子の絵はただの落書き
057:県(1〜25)
(美穂)週末に県境から来た人の車の屋根に高く積む雪
(葵の助)靴音が響く階段鉄のドア県営団地で時空が歪む
(梅田啓子)千葉県を出でしこと無し でで虫の殻を失くしてのびきった下肢
058:惨(1〜25)
(美穂)街角で君にばったり遇った日に限って惨めな出で立ちのわれ
(梅田啓子)もう誰も止められないのか独裁者の描く悲惨なあの日の未来
059:畑(1〜25)
(辺波悠詠)深緑の段々畑の頂上で皐月に贈る草笛を吹く
(映子)さわさわと音立ててくる風たちの母は緑の里芋畑
(葉月きらら)この花を知らないなんて初恋の人が笑ったれんげの畑
060:懲(1〜25)
(美穂)懲りもせず挑み続けるひとの背の悔しさのバネの弾むを見たり
(@貴)春キャベツめくる指先きみはまだ勧善懲悪うたがはずをり