題詠100首選歌集(その12)

            選歌集・その12


001:咲(98〜122)
(蒼鋏)花弁舞う季節をすぎてなおも咲く 日かげのさくら蒼きともしび
(はぼき)オジサンの心にだって花は咲くただ本人が気づかないだけ
(やまさわ藍衣)咲きなさい、笑いなさいとラジオから命令形のやわらかき歌
005:返事(92〜116)
佐藤紀子)五秒おきに話も聞かずに「うん」と言ふ 夫の不機嫌飽和状態
(はぼき)いい返事期待してると囁かれ「ごめんなさい」を背中に隠す
(やまさわ藍衣)誤解だと言えばなおさら追い詰めるからあなたへは返事を書かぬ
(お気楽堂)風吹けばかすかに揺れる花筏 返事が来ないことは知ってる
016:捜(54〜79)
(円)辺境の血はなお濃くて亡き人を探す両手に螺旋が絡む
(深影コトハ)救助から捜索隊に名を変えた雪山の朝は誰も無口で
017:サービス(52〜76)
(梅田啓子)サービス・ガール、モガ、モボのいし昭和には憧れという文化のありき
(はぜ子)海よりも高原よりも思い出はサービスエリアのコーヒーの湯気
(蓮野 唯)辛そうな君が笑顔を取り戻すサービスエリアのソフトクリーム
(やまさわ藍衣) 埋み火を掻きだし熾す火のような深夜にうかぶサービスエリア
(只野ハル)ほっとする熱いお絞りサービスにオジサン達はああと声上ぐ
019:妹(51〜75)
佐藤紀子)亡き姉の齢を三十余り越ゆ 気持ちは今も妹なれど
(はぼき)ふるさとに年の離れた妹が居るのだと言う友の目遠く
(廣珍堂)パンストを投げつけてくる妹の浮腫んだ脚に雨の匂ひす.
032:叩(26〜50)
(原田 町)スリッパの裏で一瞬ゴキブリを叩きつぶせしわれは修羅かも
(五十嵐きよみ)どこからか布団を叩く音がして日暮れが近づきかけたと気づく
(小原更子)晴れた日に布団をたたく幸せは禁じられてるタワーマンション
佐藤紀子)百回もボウルに叩きつけられてパン生地はわがストレスを消す
061:倉(1〜25)
(紫苑)冬ひと日うたのこころを生徒らに説きし老師の鎌倉に病む
(美穂)竜巻が倉庫の屋根を吹き飛ばし やがて取材のヘリは飛び来る
(遥)「穏やかな風届けます」倉敷のひと絵手紙の友に加わる
(映子)嬌声も黒い花火の跡になり夏も終わりの海辺の倉庫
(文乃)競技かるた始めた娘を追いかけて覚える小倉百人一首
062:ショー(1〜25)
(天野うずめ)ペンギンのえさやりショーをやり終えて魚の臭いの消えない右手
(こはぎ)あの人の指先を思い出したくて素肌にやわく羽織ったショール
(文乃)風呂上がりタオルの巻き方工夫してにわかファッションショーが始まる
(ひじり純子)背を向けてヒーローショーのヒーローは空の青さを見上げていたり
(お気楽堂)朝までの時間潰しにもぐり込むレイトショーにはアベックばかり
063:院(1〜25)
(文乃)色褪せた健康機器のポスターが貼られたままの整形医院
(映子)入院の間にみなオナジカオニナル惚けたような達したような
(ひじり純子)西側の病院の窓ことごとく西日を避けるすだれで覆う
(辺波悠詠)通院のたびに路肩に咲く花が枯れていくのをただ眺めてた
064:妖(1〜25)
(天野うずめ)妖怪の仕業で事が収まって大貧民が再開される
(葵の助)妖精のようなドレスは似合わなくなった女に真珠(パール)が光る 
(遥)妖精がそばにいること簡単に信じてしまう春がすぐ来る
(文乃)チョコレートのおまけの花の妖精のカードを大事に集めていた日
(ほし)こどもらが「妖怪ウォッチ」の歌うたふ狭き通学路を徐行せり