題詠100首選歌集(その13)

<ご存じない方のために、時折書いている注釈>

 五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の催し(年初に100の題が示され、その順を追ってトラックバックで投稿して行くシステム)に私も参加して10年目になる。私の投稿を先行させつつ、例年勝手な「選歌集」をまとめ、終了後に「百人一首」を作っており、今年もその積りでまず選歌を手掛けている。至って勝手気まま、かつ刹那的な判断による私的な選歌であり、ご不満の方も多いかと思うが、何の権威もない遊びごころの産物ということで、お許し頂きたい。

 主催者のブログに25首以上貯まった題から選歌して、原則としてそれが10題貯まったら「選歌集」としてまとめることにしている。なお、題の次の数字は、主催者のブログに表示されたトラックバックの件数を利用しているが、誤投稿や二重投稿もあるので、実作品の数とは必ずしも一致していない。
          

              選歌集・その13


033:連絡(26〜50)
(諏訪淑美)連絡はしないからねと出た旅の夜半の目覚めに人を恋いいる
(小原更子)「れんらくちょう」が「連絡帳」になりしころ字の誤りを子に教えらる
034:由(26〜52)
(梅田啓子)ひとりだけカメラを見ずにいる少女 生きにくきわれの理由のごとく
(湯山昌樹)理由などなくてただ歩きたかった 春の終わりの西日の中を
(やまさわ藍衣)咲く理由などと言わない草花に好かれていてもいいかと思う
(コバライチ*キコ)ほんとうは別れる理由などなくて俯く君の息を見ていた
(はぜ子)夕立に素足で駆けるきみはまだ長靴を履く理由を持たず
035:因(26〜50)
(梅田啓子)素因数分解すれば政治家の素数のなんと少なきことよ
(五十嵐きよみ)原因はつまらないことコーヒーを二人分入れて終わりにしよう
(小原更子)「目がきれい」「声がいい」などの因子から「恋に落ちた」が抽出される
(はぼき)素因数分解という単語だけ記憶の隅に残されており
(廣珍堂)原因はメタボですねと言う医者は標準体重だけど禿げてる
(只野ハル)原因を特定できぬそのままに何とかなると先送りする
036:ふわり(26〜51)
(原田 町)蜘蛛の子はふわりふうわり糸ひきて一千キロを飛ぶとかも聞く
(湯山昌樹)ふわりんと修学旅行の女生徒は同じ香りの髪なびかせて
(梅田啓子)A ラインワンピース着て会いにゆく初夏の光をふわりとまとい
(小原更子)劣化する容れ物として肉体は日々あきらめをふわりと包む
(円)バックルを留めれば足の甲に風ふわり春へと歩き始める
佐藤紀子)三度四度大きく羽ばたき青鷺はふわりと体を宙に浮かせり
(はぜ子)ペディキュアもふわり膨らむスカートも似合わないまま羽化するわたし
037:宴(26〜50)
(原田 町)シャンシャンと三本締めで宴はてて地区班長の当番おわる
(中西なおみ)みみたぶとくびすじ鎖骨さしだしてシーツめくれば始まる宴
(蒼鋏)道ならぬ刹那の宴雪国の 凍えし足のぬくむ間もなく
(五十嵐きよみ)賑やかに宴を開いているような一面に咲くひなげしの群れ
(お気楽堂)みな違う国の言葉で記されたラベルの酒を酌み合う宴
佐藤紀子)そよ風のやうにこつそり吹きぬける寂しさ残し宴は果てたり
(鈴木麦太朗)宴会もしまいとなれば熱い茶をこくりと飲んでふーなんて言う
038:華(26〜50)
(原田 町) 昼食の膳にそろそろ冷麦か冷やし中華をのせたい五月
(由子)「スッピンはNG」なんて言いながら華やぐことに嫉妬されてる
(中西なおみ)華奢な首こくんと曲げたストローを飲み終えるまで返事まってて
(はぼき)中華まん分けあい食べた帰り道あの店はもうないのだそうな
(五十嵐きよみ)結末の悲劇を暗示させたあと序曲はふたたび華やかに鳴る
佐藤紀子)華氏百度の夏にも慣れてテキサスに住まふ次男の声は明るし
039:鮭(26〜50)
(希屋の浦)朝食に鮭フレークを食べている今日のわたしに予定はないの
(鈴木麦太朗)ちゃぶ台に乗っていそうなものとして鮭一切れはしろく塩ふく
065:砲(1〜25)
(映子) おかあさんオミヤゲだよってくれたよね図工の時間の割り箸鉄砲
(只野ハル)島影の朽ちた砲台歳月に消えつつ今は蟹通う路
066:浸(1〜25)
(天野うずめ)「ご自宅は1メートルになります」と役所でもらう浸水予想図
(美穂)弁当の菠薐草のお浸しは緑の役目をしかと担いぬ
(葵の助)容赦ない次のドラマの予告編 最終回に浸りたいのに
(お気楽堂)感傷に浸ることなく鳥渡るおいてきぼりの季節のはざま
068:沼(1〜25)
(こはぎ)深淵の沼にずぶりと踏み入れたあなたを帰さなくていいですか
(映子)強い酒呷って沼に堕ちようか愛してるとか云ってみようか
(文乃)沼底のように静まる講堂に座り式辞の終わり待つ子ら
(梅田啓子)手賀沼印旛沼より嫁ぎ来てわたしの人生つねにどろどろ
(中村成志)新月の波紋ひろがる隠り沼(こもりぬ)に暗渠の流れ辿りつく音