題詠100首選歌集(その14)

選歌集・その14


018:援(51〜75)
(民谷柚子)鼻声で歌え深夜の応援歌 午前二時から明日のわたしへ
(梅田啓子)支援うけ九十歳がひとり住む眠れぬ夜は芋を食むらし
(海)沿道の声援全て自分へと変換しつつ駆け抜けて行け
020:央(51〜75)
佐藤紀子)「開通の圏央道を通ろう」と迂回承知でハンドルを切る
(はぼき)一人ゆく旅の心は板ばさみ三人掛けの中央の席
(白亜)早朝の中央線に乗るきみを思うと広がる夏空がある
021:折(51〜75)
佐藤紀子)折々にメールを交はし友とわれ淡いが長き付き合いとなる
(梅田啓子)二階より皿を飛ばしてみたきかな めぐりの空気の澱める折に
(はぼき)目的地見えているのに意地悪く右折禁止の標識が立つ
(ハナ象)家庭って折り詰めですか母という枠にこぼれる四肢をねじこむ
040:跡(26〜50)
(RussianBlue)奇跡だね月と地球が恋をして海が生まれて僕が生きてる
(梅田啓子)足跡をひとつひとつと消してゆく家に遺れるわれの時間を
(有櫛由之)とほとほと霰降る夜の手習ひのこれは疵跡これはくちぐせ
(お気楽堂)見せつけるためのみやげを買えばもう見向きもしない名所旧跡
(コバライチ*キコ)聳え立つボロブドゥールに遺されし栄華の跡を鳥掠め飛ぶ
041:一生(26〜51)
(原田 町)一生ものと勧められても黒貂のショール纏ってゆく場所が無い
(梅田啓子)一生に一度やんちゃをしてみたし 「 このど阿呆 」 と言われるような
(有櫛由之)沙羅の花拾へる僧の頸白しふと一生(ひとよ)てふ距離をたがへむ
(お気楽堂)ひきかえに失うものを悔やむ日が一生来ない愛をください
(蓮野 唯)恋するに一生なんて短いと焦がれ乱れて夜が更けていく
(周凍)一生のこのひとときのゆきかひにただ熊蝉のこゑのせきたる
(小原更子)語るべき物語ある人といて物語なき一生(ひとよ)噛みしむ
(廣珍堂)指先に初めて触るる固さあり一生終へし母のくちびる
042:尊(26〜52)
(蒼鋏)自尊心かばんにしまい涼やかに エレベータの数字追う朝
(梅田啓子)へりくだり話しいる人 「 コーヒー 」 とウエイターには尊大に言う
(お気楽堂)かろうじて涙を止める自尊心ふるい立たせて化粧ほどこす
(ハナ象)自尊心1ヶ月分コンビニでATMが吐き出す諭吉
佐藤紀子尊厳死望みゐし母その通り意識亡くして二日で逝けり
043:ヤフー(26〜51)
(はぼき)ふるさとの景色なつかしせめてもとヤフーで画像検索をする
(五十嵐きよみ)テレビでの放送は夜 試合結果知りたくなくてヤフーを避ける
(只野ハル)ヤッホーとヤフー読んでた頃もあり今はググって調べ物する
(やまさわ藍衣)午睡から覚めれば巡る風ばかりヤフーのサイト開いたままに
044:発(26〜50) 
(お気楽堂)駅前に始発待ちつつくだをまく吉野家もない郊外の町
(はぼき)出発の朝を迎えた一人旅「いってきます」とつぶやいてみる
(やまさわ藍衣)足元に転がってくる発車ベルを蹴散らして乗る快速電車
(五十嵐きよみ)フランス語ふうに発音するときに哲学者めくあなたの名前
067:手帳(1〜25)
(横雲)添ひ伏せば歌ひ上手は床上手帳(とばり)の内の君が囁き
(天野うずめ)何もかも手帳にはさんでいったのでまだ残ってる映画の半券
(紫苑)次はいつと小声に聞けば無造作に手帳をたぐる指さきにくし
(葵の助)結局のところ手帳は使わずに予定はぜんぶ冷蔵庫前
(映子)びっしりと嬉しい文字の連なって母子手帳いま黄ばんで来たり
(文乃)まっさらな手帳のページが開かれる 風光りだす入学の朝
069:排(1〜25)
(葵の助)私には王子様など来ないんだ排水溝に挟まるヒール
(文乃)けなげにも「産む性」である 月ごとに排出される血の鮮やかさ
(お気楽堂)流れない未練が髪にわだかまり排水口が悲鳴をあげる
(ほし)排水路を流れてきたる笹舟の緑を追ひて早足となる