題詠100首選歌集(その15)

         選歌集・その15


070:しっとり(1〜25)
(紫苑)春の雨しばしふふめばしつとりと鉢土の黒いやまさりゆく
(葵の助)しっとりとガトーショコラは佇んであした大人の恋を仕掛ける
(はぼき) しっとりとチーズケーキが焼けたから美味しい紅茶淹れてみようか
071:側(1〜25) 
(映子)海側に朝日が昇りそしてまた山に夕日が入る日が欲しい
(ひじり純子)山側と海側という表示ある神戸の街はあおみどり色
072:銘(1〜25)
(美穂)来客に銘々皿を並べれば絵柄それぞれ少し違えり
(お気楽堂)ひとりでも僕をおぼえているひとがいれば墓碑銘なんかいらない
073:谷(1〜25)
(ひじり純子)山折りと谷折り覚え折り紙の本を見ながら娘(こ)の眼きらめく
(梅田啓子)ちさき手に山折り谷折りくりかえし孫が作れる紙の奴さん
074:焼(1〜25)
(美穂)面倒な夜はお好み焼にして私はキャベツをきざむ当番
(映子)日に焼けた君と初めて出会いしは台風一過蝉時雨る午後
(ひじり純子)鯛焼きの尻尾まで餡が入ってるようなあなたの思いが重い
075:盆(1〜25)
(紫苑)途切れたる会話におとす目のさきに盆の朱いろのわづかに深む
(こはぎ)覆水は盆に帰らずびしょ濡れの恋の水面に飛び込んでみる
(キョースケ)送り火を焚けばあなたはさみしげな顔をするから 盆は暮れゆく
(文乃)彼岸まで突き抜けるような星空が見守っている盆踊りの輪
(梅田啓子)メール打つ少女のひかる盆のくぼバスが着くまでまなかいにあり
076:ほのか(1〜25)
(天野うずめ)繰り返す休日出勤 女の子の髪の匂いがほのかに香る
(美穂)和服着てほのかに頬を染めているレトロなビールのポスターの女(ひと)
(映子)からころとほのかにおんなただよわせ素足に黒の下駄の叔母来て
(RussianBlue)五月雨を傘もささずにすれ違う女性がほのかに悪魔を纏う
077:聡(1〜25)
(美穂)目聡さは疎ましさかも知れなくて電車はうつむく人々運ぶ
(ひじり純子)聡明な女は料理が上手いなんて おだてに乗らない努力してみる
079:絶対(1〜25)
(美穂)「絶対に眠たくない」と目を擦るまだ遊びたき幼子の夜
(映子)絶対ってことはゼッタイ無いのよと子を叱る親の矛盾に満ちて
080:議(1〜25)
(ひじり純子)議事録はちゃんと書きました葉桜になった桜の木などのことも
(白亜)冬の街にやわらかな雨を乞うように会議のあとに目薬をさす