題詠100首選歌集(その18)

          選歌集・その18


023:保(52〜76)
(ゆみこ)保元の乱より千年過ぎたれどなお夏の野に響く蜩
(やまさわ藍衣)古欅の木漏れ日ゆれる保育所の五月の窓はひらかれていて
(お気楽堂)優しげにお待ちくださいと言ったきり五分聞かせる保留メロディ
(藤野唯)言い出せぬことを抱えるたびに来る資料保管庫の壁のつめたさ
024:維(52〜76)
(お気楽堂)静電気ばかりあふれるさみしさに繊維の町は絹の夢みる
(廣珍堂)ふとももはナイロン繊維の黒き艶電車のなかの陰翳礼賛
(海)ドラえもん映画で泣ける感性を維持したままでもう四十です
(佐野北斗)別れにはやはり王維だ酌み交わし三唱すべし陽関の詩を
050:頻(26〜50)
(ハナ象)携帯を頻繁に見る一瞬の孤独も恥に思える世代
(廣珍堂)バス停の上屋に雨の頻降りて高校生の音なきベーゼ
051:たいせつ(26〜50)
(只野ハル)もう君のたいせつな人ではないと気付いたあの日冷めた手料理
(はぼき)言葉にはカタチがなくてせめてもとたいせつそうに受話器を握る
(白亜)たいせつがたいくつにかわらぬようにほんのりお香を焚いて待ってる
(中西なおみ)伝えたいせつない言葉かき留めてしまったままの話のつづき
053:藍(26〜50)
(お気楽堂)ずっしりと重い甘藍選りながらかつて貧しき日々ありしこと
(中西なおみ)海を指し語りはじめる老人の横顔ほのか藍色めいて
(五十嵐きよみ)歩道橋の上から眺める藍色にしだいに飲まれてゆく夕焼けを
(廣珍堂)藍染めのモンペを穿いていたはずだ大雪の日に母の匂ひす
(湯山昌樹)藍色の入り江にしばし見入りてのちそのただ中に飛び込んだ夏
(槐)湯上りの藍の浴衣の八口に探り入る手は笑みて抓らる
088:七(1〜25)
(美穂)七段に飾る手間ひま惜しんでは来年こそと思う雛の日
(葵の助)振袖の私は七五三みたい確かに二十歳はお子ちゃまだった
(秋月あまね)七本は七十歳の意味としてお祖父ちゃんへの誕生日ケーキ
(はぼき)ひしゃくだと誰が最初に言ったのか夜空に浮かぶ七つの星を
089:煽(1〜25)
(中村成志)蜆蝶つかずはなれず紫の二頭が夏の光を煽る
(はぼき)「今だけ」の煽り文句に流されて衝動買いの手がまた伸びる
095:運命(1〜25)
(葵の助)1組と5組今年の運命を告げる桜の下の掲示
(梅田啓子)自らの机・パソコン・部屋を持ちわが運命をそれで善しとす
096:翻(1〜25)
(文乃)狭すぎる水槽の中ゆっくりと回り続ける翻車魚(まんぼう)哀し
099:観(1〜25)
(紫苑)ゆつくりと夢のつづきを引きずつて地にとまりをり大観覧車
(こはぎ)なんにでもおしまいはあるジンクスは知っててきみと乗る観覧車
(お気楽堂)あきらめや投げやりじゃなく楽観と思えば生きるのもつらくない