題詠100首選歌集(その21)

          選歌集・その21


003:育(108〜132)
(鈴木麦太朗)うちがわの白いところをこちょこちょとしているうちに子猫は育つ
(鮎美)育休のさなかの同僚訪れぬ涎まみれを大事に抱きて
(まる)育てずに今日より人の母となりホットケーキを朝食に焼く
011:錆(82〜106)
(こと葉)六月の記憶の果てに錆ついた釘がくの字に曲がって刺さる
(お気楽堂)窓枠に錆の浮きたるコーポラス思い出はみな潮風に散る
(花夢)潮風で錆びてしまったこころなど土に還しておしまいなさい
(莢)曖昧という文字から不意に一筋の錆色をのせ秋風が吹く
012:延(82〜106)
(お気楽堂)二回目の延長告げてもう声もかすれ始めるひとりカラオケ
(miki)延命の処置全て断ち退院の 母の死顔(ねがお)の微笑み哀し
013:実(80〜104)
(白亜)実らない八重山吹の黄の濃さを愛したふたり、いつかの5月
(莢)桃の実のなかで晩夏の点滴がしたたりおわる午後の静けさ
027:炎(52〜76)
(お気楽堂)君の名と見慣れた文字を舐めながらほんの一瞬炎が笑う
(廣珍堂)陽炎は炎暑の道に漂ひて西瓜畑の砂へと流る
028:塗(52〜76)
(お気楽堂)都合よく塗り替えたって無駄だよとおもいで河がわたしを拒む
(白亜)幾重にも塗られた蒼いみずうみの奥深くから涙をひろう
(まる)ペディキュアを初めて塗れば街を行く足の先より夏は来りぬ
(こと葉)過去からの夢のかけらに塗る色はあしたの空に尋ねてみよう
029:スープ(51〜75) 
(お気楽堂)なぐさめはいらぬ仲なり黙々とスープまで干すカップラーメン
(鈴木麦太朗)はじめてのひとと語らうひとときのスープカレーはきれいに食べる
(民谷柚子)真夜中のデスクですする粉末のコーンスープに溺れてる月
(ネコノカナエ)溶き卵鍋に放たれゆらゆらとスープに唄う陽炎の舞
030:噴(51〜75)
(深影コトハ)虹色の噴水 真下を駆け抜けてハッピーエンドの人魚姫になる
(民谷柚子)毛穴から夜が噴き出す溢れ出す ねえきみのここほくろがあるね
062:ショー(26〜50)
(原田 町)ショーウインドウに映った影は我のもの何だか背中丸くなってる
(鈴木麦太朗)戦隊ショーの派手な五人があらわれてイオンモールの昼はたけゆく
(五十嵐きよみ)夏服とタオルの間に詰めてきたアーウィン・ショーの短編を読む
佐藤紀子)「ショ―はもうこれで終わり」といふごとくスーパームーン雲に隠れる
063:院(26〜50)
(はぼき)退院の荷物まとめて着替えたらなんだかとても場ちがいな人
(白亜)病院の外を知らない子のなかに丘いちめんの秋桜(コスモス)がある
(五十嵐きよみ)取れかけたページをなだめつつ使う古びた国土地理院の地図
(円) をんなではないなと思ふ。病院の淡いピンクがひどく似合わぬ
(中西なおみ)産院の靴箱にあるエンジェルの翼をつつむ午後のひだまり
(廣珍堂)参議院本会議室はガラガラで空調の風はちぐはぐなまま
(コバライチ*キコ)病院のにほひは案外嫌いじやない非日常に身を沈めたり
佐藤紀子)入院の荷物一式整へて最後に入れるブックリーダー
(深影コトハ)希望とか未来とかじゃなくただ あの日 院生室に満ちていた光