題詠100首選歌集(その27)

         選歌集・その27


023:保(77〜101)
(さくら♪)書架越しに見つめる視線隠すため探す振りした宇津保物語
(三船真智子)えぐられた傷の深さに気づかずに静かに横になる保健室
(柏井なつ)保護しないメールが消える音がする夜は浄化の天使の時間
024:維(77〜101)
(こと葉)進めずにまずは現状維持と決め彼方の空の風を見つめる
(ネコノカナエ)三日月は刃物の形 沈むとき空の繊維を引き裂いてゆく
050:頻(51〜77)
佐藤紀子)鳴き交はすカモメの声が頻りしてまもなく今日の陽が昇り来る
(民谷柚子)まばたきの頻度できみにキスしたい眼鏡かけてははずす思春期
(蓮野 唯)寒空にただ寂しくて恋しくて頻りに開くメールボックス
051:たいせつ(51〜76)
佐藤紀子)たいせつな思ひ出ひとつ スペインの旧市街で見し冬の満月
(深影コトハ)たいせつにしまっていてね あの夏の手紙 砂浜 もつれた小指
(髭仙人)たいせつと おもへる人の 幾人(いくたり)か 在りて我にも 生くる甲斐あり
(土乃児) 月曜日君と会いたいせつなさが雨の音色で更に深まる
081:網(26〜50)
(鈴木麦太朗)軒下の網をつたって上へゆくゴーヤの蔓の性をかなしむ
(ほし)横浜の夜景の底で網焼きのハマグリ開き決算終る
(原田 町)捕虫網ふりまわしつつ子ら走るトンボやバッタの減りし堤を
(はぜ子)胸中の爆発物を網棚に置き去りにして逃げろ金曜
084:皇(26〜50)
(はぼき)御製歌をひもといてみる天皇と呼ばれるゆえの苦悩あるらし
(湯山昌樹)大友の皇子(みこ)は悲しと思いたり 瀬田の唐橋目にする旅に
佐藤紀子天皇陛下を「てんのうさん」と言ひませり 京都に生れ育ちし友は
086:魅(27〜51)
(諏訪淑美)「魅せられて」歌いし女齢重ね今宣伝す「アンチエイジング
(湯山昌樹)魅入られたようにパソコン続け打つ 通信票の時期午後十時
087:故意(26〜50)
(谷口みなま)何故意味もなくあの声が聴きたいの夕焼け空の月を見上げる
佐藤紀子)〈こい〉と打ち変換すればワープロが〈故意〉と応じる〈恋〉だつたのに
(やまさわ藍衣)『未必の故意』で罪問うニュースが流れくる遅刻しそうな二度寝の布団
090:布(26〜50)
(@貴)白月とふ画布を張りたる十五夜におそれしらずの夢かたりをり
佐藤紀子)久々に来る子を待ちて下ろしたる布巾なかなか水を吸はない
(コバライチ*キコ)布の目を刺す指先の確かにて刺繍の薔薇の紅き花びら
(廣珍堂)ナイロンの布の厚さも冬となり電車のOL脚組み替える
093:印(26〜50)
(諏訪淑美)初印象よくはなかったそれなのに赤い糸結ばれ50年経ぬ
(コバライチ*キコ)印伝の眼鏡ケースは葡萄色夜は葡萄の甘き夢見る
(五十嵐きよみ)印象派ゆかりの村に訪ねきて絵で見たとおりの景色に出会う
(湯山昌樹)わが腕はどうやら曲がっているらしい 出勤簿の印なかなか揃わず