題詠100首選歌集(その28)

選歌集・その28


006:員(118〜142)
(ゆき) 非情なるブザーの鳴りてわたくしは定員といふ枠をはみだす
(青山みのり) いずこにも人員整理の波は寄せ月より下り来しかぐや姫
053:藍(51〜75)
佐藤紀子)幾重にも重なり合へる山並みの遠きは淡きあはき藍色
(RIN) デニム地の硬さにも似て十代が駆ける部活の風は藍なり
(民谷柚子)藍色の髪の少女は秋を往くそのゆびさきに月絡ませて
(蓮野 唯)藍色を静かに白が押していく午前六時の窓辺の机
(睡蓮。)青よりも深い藍色ジーンズの色の好みは君と似ている
(東馬 想)藍色のリボンが胸にとまってる高校生という名の蝶々
054:照(51〜76)
(たえなかすず)みえていたものが真実ではないと照明が消え降りる緞帳
(三船真智子)ひんやりと強い指先ふれあって日照時間少なめの人
(ワンコ山田)開演のベル鳴りやがて照明が落ちてセリフを考える恋
055:芸術(51〜76)
(やまさわ藍衣)「芸術会館前」のバス過ぐ 木漏れ日と戯れてゆく鈴懸の道 
056:余(51〜76)
佐藤紀子)日没のあとに残れるひとすじの余韻のやうなくれないの雲
(蓮野 唯)出勤の余った時間濃密な抱擁に酔う月曜の朝
(牧童)空蝉の余命を告げる雨はやみ 何も残さず静かな夜明け
(miki) またひとつ消えゆく夢や我が余生時間(とき)を追いかけ日々追われゆく
(ゆき)涼やかな余白残して「元気で」と結ばれてゐる晩夏のてがみ
(土乃児)山寺の陽暮らしの鐘付き終わり東予の海面に余韻漂う
061:倉(51〜76)
佐藤紀子正倉院の鳥毛立女の目鼻立ちスーザン・ボイルに少し似通ふ
(深影コトハ)ヒーローと怪獣が肩寄せ合って眠る三番倉庫の陽だまり
(まる)紙倉庫並べる街の工場の閉じてパルプの匂い絶えたり
(永乃ゆち)倉敷の石畳にはあの時の涙と笑いが染みこんでいる
(土乃児)無骨とふ男の背中に魅せられし高倉健がこの秋逝けり
085:遥(26〜51)
(コバライチ*キコ) 纏まらぬ思いは遥か続きいる曇天の空の色に似てゐる
佐藤紀子)春秋の彼岸は遥拝のみとなる 逝きて年経し父母の墓
088:七(26〜50)
(原田 町)七変化のなれの果てかも紫陽花は末枯れるままに秋の陽あびて
(谷口みなま)蝉の羽歩道にのこる 存分に七年ぶんをないただろうか
佐藤紀子お七夜の済んだばかりのいもうとの髪を撫でをり二歳の兄が
(コバライチ*キコ)群青の夜空に浮かぶ星ぼしを掬わんとする北斗七星
(五十嵐きよみ)七人の家族で暮らしたふるさとの家に今では母ひとり住む
089:煽(26〜50)
(円)ぐっしょりと波打ちながら煽動の言葉が町へ溶け出してゆく
(佐野北斗)七輪の炭火静かに煽りつつ鰯三匹待つ秋の酒
(中西なおみ)能古島潮の香りに煽られてはにかむようにゆれる秋桜
(ゆき)海のある街に住んでたスカートを優しい風に煽られながら
091:覧(26〜50)
(原田 町)長嶋の天覧試合我が家にはテレビの無くてラジオで聞きぬ
(コバライチ*キコ) 小春日の閲覧室は静かなり時とどまらせ我も微睡む
(永乃ゆち) 少しずつ知らない人になってゆく観覧車から手を振るあなた