題詠100首選歌集(その29)

 締切の今月末も近付いた。投稿数が伸び悩んでいるので、恒例の百人一首がうまくできるかどうか、若干心もとないのだが、去年も何とかなったので、今年も無責任で勝手な試みに取り組んでみたいと思っている。いまとなっては、参加者の皆様のご健走を期待するのみだ。

       
        選歌集・その29


010:倒(112〜136)
(牧童)雨足が罵倒しあったあの日々を 思い出させて遠のいていく
(影山光月)ごみ箱を倒したままで部屋を出る(怒ってること 気付かせたいから)
(三沢左右)試合後の野球場には忘れ傘ひとつ倒れてひとり悲しい
026:応(76〜100)
(ワンコ山田)月の満ち欠けと季節が見える位置応接セットのソファーは沈む
(影山光月)「応仁の乱」と答える子らがいてこの教室もあと三か月
(小倉るい)故郷の応接室の椅子が減り父の足首細りゆく夏
052:戒(52〜76)
(まる)溺れやすきわが性(さが)なるをことごとく戒めくれし父今はなし
(たえなかすず)十戒で割れた浜辺がここならばビーチサンダルなしで走ろう
(睡蓮。)戒めを解いて心をときはなち自分に許す今日だけビール
(土乃児)戒律の緩き日本に生れし故ウナギも牛も豚も食せり
057:県(51〜75)
(海)ふたことで出身県を見破られやや照れくさいママ友ランチ
(RIN)県はまた一つの国と隧道(ずいどう)を抜ければ美(は)しき方言と空
(睡蓮。)県境を越えるトンネル抜けるたび遠ざかる過去 君は無口に
058:惨(51〜75)
(まる)みちのくの紅葉を撮りて送り来る君は津波の惨を語らず
(ワンコ山田)明け方のサンタクロースの惨状をNASAがこっそり写メしてくれた
059:畑(51〜76)
佐藤紀子)庭隅の野菜畑の葉の陰にかぼちゃの花がほつかりと咲く
(まる)ならされし畑に秋日の照り渡りけものの足跡(ああと)深き影持つ
(牧童)まだ続く畑ちがいの話など どうでもよくて雨音を聴く
(三船真智子)立ちどまることを自分にゆるしたら山と畑と空のある町
(影山光月)「畑とは和字の代表なのです」と教師の語る午後の退屈
060:懲(51〜75)
(RIN)優しくはなくて優しきふりのみが懲りずに上手くなり天気雨
(たえなかすず) もう二年笑顔であなたを懲らしめるひとよ窓辺の花よおやすみ
062:ショー(51〜75)
(まる)ショータイム過ぎて化粧を落としいし踊り子夜の裏街を行く
092:勝手(26〜50)
(原田 町)乗り換えの勝手わからずうろうろと渋谷の駅をしばしさ迷う
佐藤紀子)晴と褻に住まひも別れ玄関と勝手口とのありしふるさと
(五十嵐きよみ)ついていてあげなければと思い詰め自分勝手な人に尽くした
(廣珍堂)豆腐屋の喇叭の音が響く路地へ来たわと 母が 出る勝手口
094:雇(26〜50)
(はぼき)教育の現場の隅に雇われていまだ果てない「学び」と「気づき」
(髯仙人)雇はるは 本意(ほい)ならざるも 背に腹と ペットの犬に 頬ずりしをり
(ゆき)サングラスごしに一瞥助手席を雇はれ情婦のふりして降りる