題詠100首選歌集(その30)

          選歌集・その30


029:スープ(76〜100)
(土乃児)母からの荷物にいつも入ってたキャンベルスープの缶と板チョコ
(柏井なつ)遠くても一人で生きていけるでしょお湯で溶かせばスープは出来る
(小倉るい)徹夜明けインスタントのスープからただよう湯気の中にいる君
063:院(51〜76)
(まる)美容院の明りこぼるる雪道にヘアカット終えし少女出で来ぬ
(牧童)雨やまぬままに寺院を巡り行く 寺それぞれにそれぞれの雨
(小倉るい)産院の暦の二十四節気をながめて子の名考えてみる
064:妖(51〜75)
(海)大量の抜け毛もシミも肌荒れも小じわもみんな妖怪のせい
(蓮野 唯)妖怪のせいなのねって歌ってる妻と娘と私と猫と
(ゆき)妖精といふ人があり妖怪といふ人もある女は不思議
(小倉るい)庭に出て妖精と話しするらしいいつまでも少女の母の小春日
065:砲(51〜75)
(まる)秋晴れの空に号砲鳴り響き子の飛び起きぬ運動会の朝
(たえなかすず)知らなくていいことばかりを知りたがる発砲しそうなつぼみの顔で
066:浸(51〜75)
(まる)磯波に禊のごとく手を浸し君恋いおれば海鳥の鳴く
(やまさわ藍衣)浸したる水によじれて数の浮く 送らなかった手紙の切手
(RIN)黄金の沐浴(ゆあみ)秋の陽たつぷりと今日を浸しつ待ちたるバス停
068:沼(51〜76)
(まる)君深く眠りいる夜は沼べより白鳥の声闇を伝い来
069:排(51〜75)
(まる)排したき考え一つ残る日は力を込めてパン生地を捏ぬ
(三船真智子)光合成いつかするためため息の排出量を確保しておく
095:運命(26〜50)
佐藤紀子)運命は決まりてゐしと気付かずに回り道して今日に至りぬ
(五十嵐きよみ)運命と呼びたいような出来事と無縁に今日まで生きてきました
096:翻(26〜51)
(原田 町)「翻訳はダメ原書を読みなさい」本の感想言えなくなりぬ
(五十嵐きよみ)「ひるがえす」より「翻す」 勢いをつけたい歌に漢字を選ぶ
097:陽(26〜51)
(谷口みなま)朝の陽を浴びて光れる柔らかき翳そなえたり十五の吾子は
(原田 町)陽関や万里の長城踏みてこしキャラバンシューズついに処分す
佐藤紀子)さつと差す雨の合間の陽の光 楓の赤をきららかにする
(有櫛由之)冬凪のにぶき光のかぎろへるみぎはを山陽電車揺れゆく
(ゆき)長き指すらりとスマホをスワイプし陰陽師めくピアスの少年