題詠100首選歌集(その31)

          選歌集・その31


008:原(117〜143)
(鮎美) 金平糖ひとつぶひとつぶ置くやうに原稿用紙を埋めてゆく子よ
009:いずれ(112〜136)
(まる)またいずれ会うかもしれず穏やかに別れし夜の月まどかなり
(星宮 萩)十年の 月日を隔て 会う友と 別れの際は 「じゃあまたいずれ」
(ワンコ山田)「いずれまた伺いますね改めて」連絡のない夜を塗りこめる
(小倉るい)人間もいずれ化石になるものと思えば楽し地学教室
013:実(112〜136) 
(矢野理々座)ヘソクリを隠した実家の仏壇も処分しようか老いて独り身.
(紙屑)確実な言葉で縛る人といて雨雲はまだ遠いところに
067:手帳(51〜75)
(牧童)空白の手帳見つめて何もなく 明日は雨だと予報を記す
(三沢左右)手帳には約束だけが残されて今日も世界のどこかで豪雨
(影山光月)手帳には「妻飲み会」と書いてある桜静かに降り頻る午後
(柏井なつ)見慣れない記号が増えて手帳には誰も知らない私が巣食う
070:しっとり(51〜77)
(ワンコ山田)口当たりしっとりお気に召すようにじっくりお酒を含ませてます
(RIN)葉を全て放てる枝木のしつとりと雨を含みて季節(とき)を抱きぬ
071:側(51〜75)
(やまさわ藍衣) 側にいるだけが恋ではないものとビター多めの恋する二月
(はぜ子)右側のドア、開きます。帰らねばならぬホームにはぜの葉ひとつ
(小倉るい)側溝に転がり込んだ10円をあきらめきれず水を飲む午後
072:銘(51〜75)
(蓮野 唯)積み上げた色とりどりのらくがんを銘々皿の小鳥が狙う
098:吉(26〜51)
佐藤紀子)おみくじに末吉引きて十カ月そろそろ「吉」のやつて来る頃
(五十嵐きよみ)昼どきのワインの酔いを醒ましつつ吉祥寺から歩いて帰る
(蓮野 唯)小吉と小吉足せば大吉になるかもと言い重ねて結ぶ
099:観(26〜50)
(はぼき)一人ではちょっと乗れない観覧車高いところは平気だけれど
佐藤紀子)お互ひを理解できぬと達観し夫婦はやつと家族になりぬ
(中西なおみ) 髪の毛をかきあげながら振り向いて授業参観母を待ってた
(光井第一)胸奥は空疎で外は快晴でそっと観に行く深海魚展
(牧童)老いてなお諦観できぬ雨の街 濡れた衣服と汚れた髪で
100:最後(26〜50)
(髯仙人)どの樹にも 最後の一葉の 落ちるとき あるはずなのに だれも見てない
(原田 町)最後にはごみになると思いつつ綿入れちゃんちゃんこの虫干しをする
(コバライチ*キコ)最後尾守つて歩む人がいて山の景色の蘇りくる
(五十嵐きよみ)最後から数えたほうが早そうなところまできたこの人生も
(廣珍堂)とんこつのスープを最後に飲み干して噴き出す汗を初夏のものとす.