題詠100首選歌集(その32)

           選歌集・その32


007:快(117〜142)
(鮎美)あのやうな母の遺伝子継ぐ顔をからだのうへに掲ぐる不快
(まる)砂糖壺に入りし蟻の底知れぬ快楽(けらく)を思(も)えば身の慄きぬ
(ゆき) 午後九時の新快速の窓硝子呪術師めける女がうつる
(ワンコ山田)不愉快なことも投げつけあったなら飛び散ってもう遠い星屑
(三沢左右)初夏の影快し石段の熱きを裸足にて踏む日なか
027:炎(77〜102)
(さくら♪)秋風に揺れるコスモスはんなりと淡い炎があなたを照らす
(青山みのり) 炎天にゆらぎ気化して消えてゆく汗と気力と朝の悔しさ
(三沢左右)炎天に熊蝉の骸からからと羽持たるまま砂上を滑る
(砂乃)夕闇の炎が街を包みつつガレのドームに明かりを灯す
028:塗(77〜101)
(睡蓮。)記録より記憶何度も塗り変えて幸せだったことにしておく
(ワンコ山田) 真っ青に空を塗られて一滴も雲にはなれず涙はおちる
(星桔梗)優しさの上塗りいつしか剥げ落ちて北風が吹く隙間が残る
030:噴(76〜100)
(ゆき) ひたひたと水の匂ひのするやうな噴水前で待つとふメール
(三沢左右) 通勤のバスより見ゆる噴水の風に崩るる形なつかし
(砂乃)忘らるる怒りのひとつ無造作に開けられコーラの缶は噴き出す
073:谷(52〜76)
(矢野理々座)谷間から望むきれいな夕焼けが「早く帰れ」と秒読みをする
(三沢左右)谷川にあまた星ぼし揺らしつつ冬の夜閑と冴えわたりけり
(小倉るい)母の住む町へと続く谷川を離れてしばしワラビ摘みいる
(土乃児)厄迎え生薬煎じ服すれば九谷の湯呑日々染まりゆく
074:焼(51〜75)
(やまさわ藍衣)焼け焦げたパンの耳だけ残る皿 ごめん昨日は言い過ぎていた
(蓮野 唯)家中に酸味と甘味を漂わせ出番を待ってる焼き林檎たち
(ワンコ山田)年齢の欄うめるたび楽園が焼きはらわれてくすぶるにおい
075:盆(51〜75)
(永乃ゆち) 初盆を流れ作業でこなしてく泣けるひまなどない方が良い
(東馬 想)振り付けを半ば無視して盆踊り調子外れの夏は行き過ぐ
(三船真智子)誕生日うやむやになる盆生まれ送り火の日がそれと言えずに
076:ほのか(51〜75)
(海)「久しぶり」改札口から現れたあなたの頬はほのかに紅い
(ワンコ山田)判断がぐらつくふいに誘われてほのかに期待していていいか
(小倉るい)去年君が教えてくれた草笛の声のほのかに聴こえる気配
077:聡(51〜76)
(ゆき)ピンと耳立てて過ぎ去る風を見る猫よおまへは聡明である
(星桔梗)聡明な人であったらこの道はきっと選択肢に無いでしょう
(小倉るい)少年の仮面を付けて寝る夜は聡し心の育つ気のする
(RIN)端的な返事に聡さ感じれば常より暗き影ある廊下
079:絶対(51〜75)
(柏井なつ)絶対に眠らないって言ったのに無垢な寝顔に言えない文句