題詠100首選歌集(その33)

   選歌集・その33


003:育(133〜158)
(山本左足)僕たちは勝手に育ってきたんだと思う夜更けのマクドナルドで
004:瓶(127〜152)
(まる)自家製のピクルスの瓶暗がりに蓋の開く日をひっそりと待つ
(青山みのり) 念入りに瓶の支度をととのえて捨てたいことば煮込みつづける
(小倉るい) 理科室の牛乳瓶の牛の字の下が100ミリリットルの線
011:錆(107〜133)
(まる)引き出しに錆びたる鍵を見し日より開かざるままの部屋ひとつ持つ
(百島ゆき美) 錆びついた指輪砕ける夢を見て何故だか今朝はひどく寂しい
(土乃児)錆声の老ブルースマン紫の煙に隠れてピアノを叩く
(鮎美)秋空に流るる雲も映しつつバケツの水に錆広がれり
(小倉るい) 憧れが錆びつきそうで怖いから君に近づかないクラス会
(粉粧楼) 夢よりも重くおひさま香るとき眠る私は錆色の猫
012:延(107〜133)
(ゆき) 終はりなき延長戦と思ひをり見覚へのある傘にふりむく
(柏井なつ)何度目の延期なんだか責めもせず恋人としてまた誕生日
(泳二)指先の影とわたしの指先を結ぶ延長線上の朝
014:壇(104〜128)
(東馬 想)学校の花壇に埋める球根を爆発物のように扱う
(柏井なつ)教壇を降りたらただの男でも私は卒業するまで生徒
(鮎美) 花壇より君へと水を撒き散らすあの夏の日の制服の白
(小倉るい)水色の隣に白きシャツ見つけ花壇の中に逃げる放課後
015:艶(101〜125)
(三沢左右)艶なれや灯下にゆびのしらじらと雪を廻らすごとひるがへる
(鮎美)朝焼けにとぼとぼ帰る指先の爪のいろだけ艶めくわたし
(小倉るい)しゅるしゅると薔薇の花びら湧き出でて6月の夜は深く艶めく
(あかね)艶めいた女のよさをいうひとの悲しいまでの老醜がある
(柳原恵津子)躑躅色のくちびるの艶を凝視せり子の胸の膨らみゆく冬に
032:叩(76〜100)
(津野桂)夜走るタクシーの窓を叩くのは星にも雪にもなれない霰
(新藤ゆゆ)スコーンの焼けるにおいで目が覚める やさしさに叩きのめされながら
080:議(52〜76)
(睡蓮。)名案は仕事の後の議事録もない雑談の中で生まれる
(影山光月)議事堂の向こうの空を飛行機が流れていって一筋の雲
(柏井なつ)こんにちは笑顔で言えば一瞬で話題を変える井戸端会議
082:チェック(51〜75)
(永乃ゆち) 早口になるのは嘘をついた時あなたの癖はチェック済みです
(ゆき)暖色のタータンチェックのスカートのすそ翻り秋は来たりぬ
(睡蓮。)幸せなほろ酔い気分戒めに今夜も体重チェックして寝る
(小倉るい)今夜だけ猫になりますチェックインしないで入るホテルの中で
(椋)木枯らしにチェックのストール巻き直し 首をすくめて君の腕取る
(柏井なつ)弁当も可愛い女子は可愛くて小さく包むギンガムチェック
086:魅(52〜76)
(ゆき)わたくしも魑魅魍魎の一匹にカウントされる女子更衣室
(睡蓮。)晩秋の夕焼け空に魅入られて抗(あらが)えぬまま街をさすらう
(ほし)最下位の都市の魅力度ランキング逆に話題となりて秋なり
(ワンコ山田)唯一の魅惑ポイントが年上だなんて素直に言うのが魅力
(柏井なつ)香ばしく通行人を魅了する広告であるパン屋の薫り