題詠100首選歌集(その36&37)

 このイベントも昨夜で終わった。今日から、まだ選歌の済んでいない題と作品の落ち穂拾いだ。まとめて進めるのもしんどいので、25題ずつくらいの単位で、いくつかの選歌集に分けようかと思っている。そうなると、今日もう1組、明日か明後日にあと2組というくらいになるのだろうか。(→→結局、その37まで進んで、今日のブログに追加した。)
 その後に、恒例の百人一首の作成にかかろうかと思う。なお、完走者の数が100人に届かなかったので、昨年同様、完走者に限らずに選定しようかと思っている。


          選歌集・その36


001:咲(148〜167)
(ワンコ山田)太陽に向かって咲いて火傷してなおも背伸びをする夏の君
(久野はすみ)咲き終えしのちのあかるさ ビーカーの底にしずかに白沈みゆく
(小倉るい)タンポポが咲き乱れたる空地への思いとどめて下宿に帰る
002:飲(140〜161)
(粉粧楼) 飲み込んだ言葉の羽化を待つ夜明けビルの間の空は金色
(小倉るい)飲み込んだ別れの言葉乗せながら汽車は西へと進み始める
(泳二)思慮というよくわからないもののため丸い言葉をひとつ飲みこむ
005:返事(143〜159)
(小倉るい)誰彼に話していたり「おはよう」に返事してきた猫のことなど
008:原(144〜147)
(柳原恵津子) ストリートビューで覗けば原発の入り口に白きいちにん立てり
010:倒(137〜143)
(久野はすみ)やさぐれることを知りたる少女期の埃まみれの三点倒立
011:錆(134〜135)
(久野はすみ)ひらいてももう鳴りださぬオルゴール錆の匂いを閉じ込めており
013:実(131〜136)
(柳原恵津子)そういえば君のズボンのポケットからどんぐりの実の出ぬ秋だった
014:壇(129〜130)
(久野はすみ)冬隣やさしきひとの仏壇にそなえるための果実を選ぶ
016:捜(105〜128)
(ワンコ山田)恋ごごろ捜索願を出しましょう もぬけの殻に詰め込む分の 
(星桔梗)捜さないつもりでいたのに君はまたかくれんぼして私を誘う
018:援(101〜122)
(影山光月)「人生の応援歌です」ラッパーがラジオで語る雨の日の午後
(三沢左右)救援の手は伸べられず浴槽の小舟沈めり日曜の夜
(小倉るい)応援の輪からはみだし太陽を背にして砂浜あゆむ6月
(久野はすみ)声援がひときわ大きくなる日暮れマラソン最終走者戻りて
019:妹(101〜123)
(青山みのり)方角を気にしてねむる妹のようにみなみをさがす夕顔
(三沢左右)天窓に張り付く蜻蛉の影長く濃く妹の髪の上に落つ
(紙屑)妹と呼ばれる角度からのぞくサラダボウルの底のうすやみ
(粉粧楼)妹の顔した夜の記憶だけ抱きしめながら越えてゆく夏
020:央(101〜121)
(鮎美)編集室の窓に雨粒ばたばたと サブタイトルは中央寄せに
021:折(102〜123)
(星宮 萩)青空に 紙で折った 飛行機で 飛行機雲を つくってみたい
(青山みのり) 折れるより曲がるオンナが好きですか 今年も庭に植えるあさがお
(山本左足)屈折と骨折を聞き間違えた君から届くお見舞いの品
(久野はすみ)時計屋の角を左に折れたれば目つきの悪い猫のなわばり
022:関東(101〜118)
(三沢左右)関東の古書店市の情報をまづ調べをる旅行前日
(柏井なつ)関東の雨の知らせを旅先で聞けばますます青くなる空
(小倉るい) 弟に東京のほうとごまかした進学先は関東の端
(津野桂)関東はまもなく雨と決めつけてあなたの故郷はゆっくり晴れる
023:保(102〜116)
(星乃咲月)邪魔されることなく泣ける場所として君の背中を確保している
(あかね)担保とて記載されたる土地に住む特に気になることとてないが
024:維(102〜115)
(小倉るい)洗濯機の繊維のくずが気になってあなたを想う夏の休日
(泳二)夕焼けが君にもらったマフラーの繊維のすき間ひとつひとつに
(久野はすみ)なめらかに答える朝の舌先にほうれん草の繊維が残る
025:がっかり(101〜118)
(星乃咲月)がっかりの色は何色ふりやまぬ雨にふたりは閉じ込められて
(小倉るい)あの道を左に曲がらない君にがっかりしているそういう女
(泳二)逃げていたインコが今朝帰って来た少しがっかりした表情で
(久野はすみ)うっかりにがっかりしたのはつかの間で夜鳴きうどんを並んですする


        

           選歌集・その37


028:塗(102〜109)
(如月綾)君色に染まりたくって爪先をあなたの好きな赤色に塗る
029:スープ(101〜110)
(粉粧楼)舌先でざらつくスープ残るのは後悔ですか反省ですか
031:栗(103〜104)
(久野はすみ) 閉めきった部屋にもしみる雨音の記憶の中に栗の花咲く
034:由(80〜102)
(青山みのり)目的も理由も無しに 会いたい とわずか四文字のメールを送る
037:宴(76〜100)
(星桔梗)楽しげな宴に興じる人達の声を背にして星を数える
(小倉るい) 湯豆腐とサバの味噌煮の宴には調子外れの演歌が似合う
(山本左足) 空っぽの入れ物だけが転がって宴の後はいつも寂しい
(柳原恵津子)兼業の母の子であれば宴会も飲み会も知りつつ育ちゆく
(久野はすみ)宴席のすみにたしかにいたはずのあの子がいないはないちもんめ
040:跡(76〜97)
(御糸さち) 妊娠の足跡として広がったおへそを母が指差し笑う
(影山光月)献血の太い針跡見せる午後木洩れ日そっと誰にでも降る
(じゃこ)足跡がすぐに消されるほどの雪味わいたくてゆっくり歩く
(如月綾)痕跡を残さず部屋を出て行くわ 幸せだった記憶も捨てて
041:一生(77〜97)
(青山みのり) すがたかたち姿勢の良さで一生が決まると悟る野菜コーナー
042:尊(78〜99)
(小倉るい)過ぎし日に思いめぐらす中尊寺やさしい風に包まれながら
043:ヤフー(78〜99)
(ワンコ山田) 今さっと諳んじられるアドレスは家族共有ヤフーのフリー
(青山みのり)ヤフーオークションで売られてしまえ負けん気の強い弟歌わぬピアノ
(柏井なつ)本当に知りたい事はヤフーでも検索出来ぬ今どこにいる
(泳二)物知りでお天気博士で鉄オタの彼のあだ名はヤフーになった
044:発(76〜98)
(三船真智子)発情を摘まれた猫の平穏に顔をうずめて私もひとり
045:桑(77〜97)
(青山みのり)桑の実の味を忘れて泣き方を忘れてもまだ生きてゆきます
(柳原恵津子) この街に生きるさびしさ桑畑を桑の実をみたことのないこと
(久野はすみ) 桑の葉のお茶をすすめる母といてわれはみえない繭にくるまる
046:賛(76〜96)
(久野はすみ)年譜には三回あった「批評家に絶賛されたが不入りに終わる」
047:持(76〜99)
(ゆき)マグカップ両手につつむやうに持ち飲むコーヒーの湯気に冬立つ
(東馬 想)持っている運は使ってナンボだとスロットマシンにコインつぎ込む
(新藤ゆゆ)今にして思えば自慢だったこと持参おやつの手作りマフィン
(柳原恵津子)もう母に期待をしなくなって子が遠足の持ち物をあつめる
048:センター(76〜94)
(三沢左右)舞ふ雪の白少年の赤き耳センター試験の朝のバス停
(新藤ゆゆ)久々に通る給食センターの自家製たまごプリンのにおい
049:岬(76〜94)
(山本左足)君が居るような気がして振り向いた岬にはただ、ただ波の音
050:頻(78〜93)
(小倉るい)雛鳥の頻に鳴きしシュロの木の葉を揺らし来る朝の陽光
(新藤ゆゆ)頻繁にマイナーチェンジを繰り返しかわらずに在るかっぱえびせん



001〜050で、選んだ作品のない題  003:育(159)、004:瓶(153)、006:員(143〜149)、007:快(143〜144)、009:いずれ(137〜141)、012:延(134〜135)、015:艶(126〜127)、017:サービス(作品なし)、026:応(101〜112)、027:炎(103〜111)、030:噴(101〜107)、032:叩(101〜103)、033:連絡(101)、035:因(101〜102)、036:ふわり(102)、038:華(101)、039:鮭(101〜1)