題詠100首選歌集(その38&39)・完結

 最後の選歌として、昨日に続き25題ずつ、選歌集その38と39をまとめた。これにて選歌は完了である。これからぼつぼつ百人一首にかかろうかと思っている。明日は、これまで通り「前夜祭」を載せ、明後日以降に百人一首本体を載せたいと思っている。

選歌集・その38


051:たいせつ(77〜93)
(あかね) たいせつなものだからってしまいすぎなくしてしまったあなたへの愛
052:戒(77〜91)
(砂乃)戒めはクリック一つで消えていく衝動買い避け閉じる楽天
053:藍(76〜92)
(影山光月)子どもらの習字貼られし藍色の台紙も褪せてもう一度春
(久野はすみ) そうねって肯きながら藍染の袋にいれる黒糖の飴
054:照(77〜91)
(新藤ゆゆ)まだ照れがあったねパピコ選んだね冬には寒いと言って抱いたね
055:芸術(77〜92)
(じゃこ) 瞬間を切りとる人に見つめられ芸術的なあくびをひとつ
056:余(77〜93)
(久野はすみ)明け方のソファーで眠るわたくしはいつもどこかが字余りなのだ
057:県(76〜88)
(三沢左右)滋賀県を走る電車は雪の白 冬はじまりの寒さをはこぶ
(新藤ゆゆ)いくつかの県をまたいで会いにゆく俵屋飴ん子買ったついでに
058:惨(76〜89)
(青山みのり)どの姿からを無惨と呼ぶべきか小春日和の終のあさがお
059:畑(77〜91)
(砂乃)凍りたる畑の土手をひとつずつさくりさくりとわたる霜月
(柳原恵津子)雨上がりのお芋畑のお土産は大きな芋と泥んこズボン
060:懲(76〜91)
(あかね)懲りもせず新たな恋にかけることばかにしていたわたしがばかだ
061:倉(77〜91)
(じゃこ)倉庫では倉庫としての責任を負った空気が待機している
062:ショー(76〜90)
(柏井なつ) あと五分したら待ち合わせの時刻ショーウィンドウで前髪直す
(青山みのり)いつわりを問いただすため均等に味塩コショーを振る目玉焼き
(新藤ゆゆ) ぺこちゃんはブッシュ・ド・ノエルに腰掛けてショーウインドーの外を夢見る
(柳原恵津子)仄暗き水槽に子は見入りたりショーを終えし白イルカ二頭の
064:妖(76〜89)
(影山光月) 妖怪で地方再生すると言う溶解しそうな夏のニュースで
(山本左足) 「♪妖怪のせいなのね」って事にして眠っちまおう明日は晴れだ
(砂乃) 妖精をとらえるようにおそるおそる初めて触れた君の唇
065:砲(76〜88)
(あかね)砲台のかなたの空と海の色そのまま昔に続いているか
(久野はすみ)永遠に無縁なものと信じつつ「砲」という文字しるしておりぬ
067:手帳(76〜87)
(青山みのり)あのひとと会うと記した手帳から文字のこぼれる音が聞こえる
(じゃこ) 花丸をください先生、前向きな予定ばかりを書いた手帳に
(泳二)少年という言葉もつ歌ばかり写した青い手帳を燃やす
068:沼(77〜89)
(柏井なつ)泥沼の愛憎ドラマ観て笑う母も何かを隠して生きる
(新藤ゆゆ)鷺沼に向かうとビゴのパン・オ・ルヴァンの焼ける匂いがして 薄い雲
069:排(76〜89)
(柏井なつ)排他的通勤電車憂鬱な月曜の顔作って混じる
070:しっとり(78〜89)
(あかね) 高原の夏の夜明けのしっとりと湿った道を歩くときめき
(柳原恵津子)午後の雨の多き霜月前髪をしっとり濡らし子は帰り来ぬ
071:側(76〜88)
(青山みのり) 窓側の席にすわれば少しだけ泣いても月はゆるしてくれる
(大島幸子)縁側に湯呑みはふたつ 大木のキウイに登る猫を見ている
(あかね)側道に入る標識見落として迷い始める直進加速
072:銘(76〜88)
(じゃこ)そんなことよりもおたべよひよこ対鳩サブレーの銘菓合戦
(山本左足)泣きながら食べたせいかもしれないが君の地元の銘菓は不味い
(砂乃)片手では足りない愛に「感銘」という言葉の持つ湿った重さ
073:谷(77〜87)
(砂乃)慎重な谷折りの中にくるまれた粉薬三日分を受け取る
(久野はすみ)谷さんのがちょ〜んたまに言いたくてかがみにむかいがちょ〜んと言う
074:焼(76〜87)
(柳原恵津子)外泊をはじめてしたるおさなごの焼きマシュマロの話など聞く
075:盆(76〜86)
(山本左足) 巻き戻しボタンを押して覆水が盆に返っていくのを見てる
(泳二)盆踊り大会を告ぐポスターが貼られた路地に北風が吹く
(新藤ゆゆ) 和三盆黒糖羊羹 ゆるい風 夕日の重さ おいてきたもの
(久野はすみ)嫁という人になりきる指先がお盆の上にふきんをのせる

        


            選歌集・その39


076:ほのか(76〜88)
(あかね) シナモンとレモンのほのかに香りたる異国のシャボンで今宵くつろぐ
(平野十南)ぼくにある怠惰の醸しだすにおいこの車にもほのかにかおる
078:棚(81〜85)
(柳原恵津子)地球儀を寄せてタオルで棚を拭く今年もおひなさまを出そうよ
080:議(77〜85)
(新藤ゆゆ)シナモンが残る湿った月灯り会議室からゆらり吐き出す
082:チェック(76〜86)
(砂乃) 鈍色の空が指先凍らせる タータンチェックの手袋探す
(平野十南)チェック柄のノートをいつも持っている女が眠る無地の毛布に
(泳二)新しいチェックのシャツを買いに行く古いチェックのシャツを羽織って
084:皇(78〜83)
(新藤ゆゆ) あますぎる缶コーヒーを握りしめ皇居外苑ふわりと歩く
(柳原恵津子)七歳の君は生きるよ皇太子をめんたいこって読みちがえながら
085:遥(79〜84)
(青山みのり)遥か彼方よりも目先のしあわせのためにレンジに入れる肉まん
086:魅(77〜87)
(平野十南)魑魅満ちているほどの山ではなくて鳥居くぐればまた街走る
087:故意(80〜85)
(青山みのり)故意だとか策略だとか言われても今日の夕陽は本物の赤
088:七(78〜84)
(新藤ゆゆ) 七五三帰りに飴でたたかう子落ち葉とともに通り過ぎゆく
089:煽(77〜83)
(青山みのり)ゆうやみに西へ西へと煽られて単線電車の遠ざかる駅
090:布(81〜87) 
(砂乃) 母の服祖母の和服をほどきつつ古布を集めてひざ掛けを縫う
091:覧(77〜84)
(大島幸子) 光降るスノードームの片隅で誰かを待っている観覧車
092:勝手(77〜84)
(泳二) 舐めるのはいいけど食べちゃだめなんて切手のように君は勝手だ
093:印(79〜87)
(はぜ子)感傷と分かりながらもひとつだけ少し滲んだ印字に触れる
094:雇(76〜85)
(砂乃)雇用者の顔を見ぬまま振り込まれ給与明細パソコンで見る
(はぜ子)雇われの身をうす笑う黒猫に腹を撫ぜろと強いられている
095:運命(51〜85)
(RIN)運命と思ひし縁も一言で裂ければ駅の風のやさしさ
(柳原恵津子) 運命とやがてことばにしなくなり本当の運命が根を張る
096:翻(52〜83)
(三沢左右)九歳の夏の記憶は海風に翻弄される算数ノート
(柏井なつ) カーテンを翻す風隙間から一瞬の空旅に行きたい
(青山みのり)翻訳をするふりをして飼い猫とふたりでまるくなる冬の果て
097:陽(52〜83)
(海)大寒波来たりて午後の陽射しにもゆるむことなきバケツの氷
(小倉るい)思い切り遠くへ行ってしまいたい姉の墓所は陽当たりが良い
(土乃児)冬の陽ははや山稜に沈み初め歩き遍路の宿まだ遠し
098:吉(52〜83)
(柏井なつ)富士山を見ればよかった初夢は夢中で食べた吉田のうどん
(小倉るい)吉凶を占う祖父の血が流れ君と一緒に行く雪祭り
(とおと)み吉野の末枯るるごときさくら木もはや小さき芽を孕み眠れり
099:観(51〜83)
(柏井なつ)教卓をステージにして観客は私一人の放課後ライブ
(小倉るい)故郷の父の初七日終えし日は観光船のカモメと遊ぶ
(新藤ゆゆ)年の瀬の観光地にはそれなりの寂しさと甘いかおりが集う
100:最後(51〜83)
(星桔梗)最後だけ少しセンチメンタルに可愛い女を演じてみたい
(由子)父行きし飲み屋か神田明神か今年最後のぶらつきプラン
(あかね)最後には分かり合えると思ったがまだ最後ではないということ
(小倉るい)あなたとの最後の夏は北国のモノクロームの海と香水
(柳原恵津子)ポンデリングの最後に食べる一粒を家族みんなでまだ見つめおり


051〜100で、選んだ作品のない題  063:院(77〜89)、066:浸(76〜90)、077:聡(77〜89)、079:絶対(76〜87)、081:網(79〜85)、083:射(79〜84)