題詠100首選歌集(その1)

 今年も題詠100首(五十嵐きよみさんという歌人の方が主催しておられるネット短歌の会)がはじまった。2月から11月までの期間に、題の順に各自が投稿するというシステムである。私も参加して11年目になるのだが、例年通り、私の投稿が済んだ題につき勝手な選歌を進め、終わったところで百人一首を作ることにしたいと思っている。全くの気まぐれで、何の権威もない無責任な選歌だが、私の遊び心に免じてお赦し頂きたいと思う。なお、対象が25首以上貯まった題から選歌し、それが10題貯まったら選歌集として掲載する方針なのだが、最初と最後はそれでは窮屈なので、例年その方針の例外扱いにしている。(題の後の数字は、主催者のブログにトラックバックの件数として表示されている数字なのだが、誤投稿や2重投稿もあるので、必ずしも正確な投稿数とは限らない。)


            選歌集・その1

001:呼(1〜74)
(梅田啓子)ママと呼ぶ声にゆるびてふり向けば光の束がわが眼(まなこ)射る
(はこべ)呼子鳥古今伝授の三鳥とう思いは深くいずれも愛し
(千原こはぎ)さん付けで呼ぼうと思う離れると決めた覚悟を見せつけるため
(美穂) 呼鈴を鳴らせば静かな足音と引き戸の鍵を回す人影
(映子)思い出を呼び出してみるあのころの畳のにおい暮れてゆく音
(はぼき)携帯の呼出音に遮られ口論しばし休戦となる
(津野桂)ゆっくりと吐き出す音に呼応するたとえばあなたは遠い海鳴り
(五十嵐きよみ)図書館の書架の片隅ひっそりと私を呼んでいる本がある
(卯野抹茶)ごはんだよ呼ぶこえだけが残されて 夕暮れ 公園 砂場のにおい
(文乃) 題一つ一つが想い呼び覚まし私は百の私と出会う
(内田かおり)鴎より白き波頭は踊りゐて地鳴りに近き海誰を呼ぶ.
002:急(1〜64)
(西藤定)急かされて飛び立つ雛よ 青が目にいたいか白が背につめたいか
(尾崎弘子)登りつめるといふ語がふさふ奥千本さほど急ではない細き道
(有櫛由之)山の端はやがて明けゆく急がねばならない理由が思ひだせない
(梅田啓子)縁側にひなたぼっこのおばあちゃん 急須をみてたら会いたくなった
(湯山昌樹)先週の雪のそばから咲き急ぐクロッカス二輪 黄は春の色
(紫苑)序破急をふとおもふとき立つ春のはかなき風を頬に受けをり
(横雲)大急ぎ朝餉の仕度終えた後あなたの横にまた潜り込む
(文乃)急カーブ続く山道にも慣れてやっとこの地の母ちゃんとなる
003:要(1〜60)
(はこべ)海岸で砂山築く要領で君との月日重ねてみたい
(五十嵐きよみ) 子どもから少女に移りゆく時期に必要とした詩集一冊
(湯山昌樹)昼休み『理科の要点』など広げ静まる教室 明日は入試日
(原田 町)葬式や墓は不要と終活のノートに書くか迷っておりぬ
(雪)必要としてくれている小さな手がほかの何より必要だった
(横雲)要垣刈り込む春ののどけさよ萌えでた若芽つややかに散る
004:栄(1〜61)
(ひじり純子) 栄養素記憶おぼろげこのごろは食べたいものを食べることにする
(はぼき)繁栄をきわめたという王朝の遺跡に立てば砂ぼこり舞う
(五十嵐きよみ)出だししか読んでないのに見栄を張りさもそれらしく話題に混じる
(柚木ことは)すれ違う人なく巡る栄螺堂胎内記憶が束の間よぎる