題詠100首選歌集(その2)

        選歌集・その2


005:中心(1〜69)
(梛野更紗)中心に触れてみたくて焦れたあの夏から遠い窓のない部屋
(梅田啓子)中心はここよとばかり写るひと冬の野に咲くヒマワリのように
(キョースケ) 自転車を颯爽とこぐスカートが風に流れて春の中心
006:婦(1〜68)
(千原こはぎ) まどろみにあの日の不安を払うため婦人体温計を咥える
(しま・しましま)吟味して夫婦茶碗を買つたけど春の終りを待たずに欠けた
(のんちゃん)少し重い婦人画報を置いていた今はもうない「それいゆ美容室」
(映子)もうすぐね重そう腰がつらいわね産婦人科は少しづつ母
(雪)旧姓にさよなら告げて新婦から主婦へとかわるタクシーの中
(蓮野 唯)妊婦ではなくなった日が誕生日子供と同時に母も産まれる
(柚木ことは)祝い膳運ぶ気配を感じつつ重湯をすする婦人科病棟
(たえなかすず)前の世は夫婦だったと酔いながらひとの夫を困らせている
(梅田啓子)ご婦人と呼ばるる講座に坐りいてうちももなにやらむずむずかゆい
(RIN)まな板に恋をきざめる友の背が主婦想わせてぬるき炭酸
(湯山昌樹)「看護婦」とやはり呼びたい かかりつけ医院に並ぶ三つの笑顔
007:度(1〜63)
(しま・しましま)いつだつて丁度良かつたことがないポケットティッシュといふ量と質
(尾崎弘子)陶磁器の焼成温度のことももう忘れてめぐる次の展示室
(御糸さち)度の合わない眼鏡を掛けて新しい眼鏡を買いに街へ出ました
(星乃咲月)完璧な角度で眠る君越しの空はスライムみたいなブルー
(蓮野 唯)胸に抱く重みのために何度でも手放す眠り白み行く窓
(スコヲプ) ため息を吐いてしまった後悔が今日の二度目のため息となる
(文乃)「雨降るよ」四度繰り返し四人の子ひとりひとりに傘を持たせる
(宮嶋いつく)ささがきの包丁入れる角度さえ確認できぬ母の手さばき
008:ジャム(1〜61)
(天野うずめ)一人には慣れない朝が増えてゆくどれだけ苺ジャムを塗っても
(はぼき)後悔はジャムが作れるくらいあるビン詰めにして封印しよう
(映子)瓶詰のあまい季節を演じるのジャムになりたいアナタとふたり
(はこべ) やりきれぬ思いを抑えジャムを煮るぶつぶつ煮立つ泡をみている
(五十嵐きよみ)香水やワインやジャムを小道具に描き出される恋の駆け引き
(星乃咲月)ラズベリージャムはこぼれて取り返しのつかないことがしたい八月