題詠100首選歌集(その3)

      選歌集・その3


009.異(1〜60)
(小春まりか)異邦人にも異星人にもなれずBOSS飲みながら夜空眺める
(紫苑)たつきの手ふと休むれば異界への出口のやうなしろき満月
(五十嵐きよみ)価値観の異なる人が同じ本を好きだと知ってしばし戸惑う
010:玉(1〜60)
(千原こはぎ)選ばれる準備はいつでもできている玉子焼きなら焦がさず焼ける
(山本克夫)玉乗りのできないピエロうつむいて公園通りで似顔絵を売る
(映子)玉子酒飲んじゃおうかって肩すくめ悪戯っ子になっちゃう君は
(槐)春風にゆれる水玉スカートの裾を抑えた笑顔が誘う
011:怪(1〜58)
(山階基)なかほどに炬燵ひとつのこの部屋に起きる怪異はぼくだけのため
(野良猫の小唄)なにもかも妖怪のせい そうならば 彼女が去ったワケも納得
(遥)毎日のニュース賑わす出来事は怪談よりも怖い現実
(雪)近道をしたはずなのにいつまでも辿り着けない白昼の怪
012:おろか(1〜53)
(はぼき)励ましはおろかあなたを慰めることさえできぬ語彙のともしさ
(柊かいう)おろかにも夢を見過ぎる人生に二度とは開かぬ蓋をかぶせり
(五十嵐きよみ)ミカエラはおろか闘牛士でさえもほとんど出てこぬメリメの原作
(文乃)通りゃんせ歌ってとおろかりそめの恋でも君に捕まりたくて
013:刊(1〜48)
(天野うずめ)冬の陽の冷たさを知る 休刊日だったと気づくまでの間に
(尾崎弘子)ほんたうのことかも知れず横の席のひとが広げる夕刊紙の文字
(みちくさ)庭の花包む昨日の朝刊に今年最初の開花予想図
(五十嵐きよみ)新刊が出れば必ず買うようなシリーズがある時期の楽しさ
(文乃)朝刊が新聞ばさみに綴られて図書館に今日の風吹きはじむ
(山本克夫)ベランダに洗濯物を干す午後に春一番と届く季刊誌