題詠100首選歌集(その4)

    選歌集・その4

014:込(1〜49)
(しま・しましま)捩ぢ上げるやうに西日が差し込んでくるから帰りの足がもつれる
(横雲)申込み締め切りましたとそっけなく断り入れて携帯閉じる
(原田 町)三月の寒のもどり日ストーブにけんちん汁を煮込みておりぬ
015:衛(1〜43)
(ひじり純子)子育てはもはや懐かし衛星の軌道は少しづつそれてゆく
(天野うずめ)知らぬことばかりが多し 見上ぐれば静止衛星輝きており
(たえなかすず)すこしだけさみしい 気象衛星は雨を探すの、ひまわりなのに
(文乃)わたくしを回る四つの衛星の如き子らとの日々愛おしむ
(五十嵐きよみ)前衛も今では昭和のなつかしさ安部公房の埃を払う
016:荒(1〜36)
(ひじり純子)「天候は荒れ模様です」ラジオからネクタイ締めた声が聞こえる
(野良猫の小唄)荒川を 飛球と風が見下ろして 少年野球の夏は暮れない
(西藤定)荒海をゆく帆船はおぼろげな輪郭のまま思い出となる
(紫苑)触れられぬ気安さもあり荒れた手にやさしき文をつづりゐる真夜
(はぼき)荒波に「氷」の一字染めぬいて夏のたよりが店先を舞う
(雪)3日後のデートの日までに唇の荒れを治すためハチミツを買う
(文乃)子どもらに声を荒げた日の午後は優しいジャズが胸に沁みこむ
(中村成志)鮭の身を荒くほぐして 和えまわすパスタとサルサ 無言のうちに
017:画面(1〜36)
(山階基)音はしないけど飲んでいるゆっくりと画面に上下するノドボトケ
(ひじり純子)画面には上下に黒い帯が出て時代の終わりのお知らせをする
018:救(1〜35)
(千原こはぎ)救い出す気もないくせに野茨をくぐって会いに来る王子様
(遥)「大丈夫」ただそれだけを繰り返す君の言葉に救われている
(みちくさ)卓上の花一輪に救われる空を見ない日陽を浴びぬ日々
(雪)真夜中の救急外来の静けさが硬い椅子から染み込んでくる
019:靴(1〜33)
(春原千花)もうお風呂入った後で靴磨く常に何かを忘れかけてる
(しま・しましま)下ろしたてのスウェード靴のつま先は今年最後の雪受け止める
(美穂)ねぇ何処を歩いてきたの幼子の靴に色とりどりの星くず
(はぼき)十二時で魔法はとけたはずなのにガラスの靴はなぜにそのまま
020:亜(1〜35)
(美穂)とっときは水森亜土のイラストに似せて幼子撮りし一枚
(西藤定)潮風を亜熱帯より運ばれし汗と思いて踏み込むペダル
(はぼき)大東亜戦争という言い方をする人ぐんと減って平成