題詠100首選歌集(その5)

      選歌集・その5


021:小(1〜32)
(千原こはぎ)今朝きみはいつもの声でおはようを言う小規模な別離を終えて
(天野うずめ)また会えぬ日々が続いてゆくならば小指で伝わる温度が欲しい
(しま・しましま)外階段だれか小さく軋ませてもう月曜は始まつてゐる
(遥)生涯のスタンスだけは決めてある「小さき者」の友であること
(志稲祐子)星空が風と奏でる小夜曲(セレナーデ)オブリガートを密かに歌う
(雪)産着から覗く小さな手にきみはどんな未来を握っているの?
(卯野抹茶)ぞんがいに好きだったなとうずくまる 足の小指をぶつけた夜に
022:砕(1〜31)
(西藤定)きしみつつ極北の地へはなれゆく砕氷船の銀色の夢
(紫苑)忘れたきものふふむゆゑ色あせし押しばなをつと指に砕きぬ
023:柱(1〜31)
(志稲祐子)二歳児は酔っ払いだね電柱にぶつぶつ言ったりするところなど
(遥)この家に満ち満ちていた賑いを柱のしるし記憶している
024:真(1〜28)
(千原こはぎ)ちっぽけな心の澱を溶かしてもいいかこんなに真っ青な空
(辺波悠詠)地下を這う線路の上で有りもしない唄をうたってあげる真夜中
025:さらさら(1〜29)
(千原こはぎ)さらさらと二月の日差しに撫でられて乾いた頬がすこしこそばい
(志稲祐子)さらさらの前髪なのにマヨネーズついちゃったから今日休みたい
(卯野抹茶)姉さんの白いドレスがほんとうにさらさらしてて泣いてしまった
026:湿(1〜34)
(天野うずめ)湿り気が残ったままのシャツを着て今年最初の仕事に向かう
027:ダウン(1〜34)
(ひじり純子)できるだけ熱くならないようにしてクールダウンを意識してみる
(美穂)意を決しダウンジャケット洗う朝ベランダはやや西よりの風
028:改(1〜34)
(美穂)当然のように落ち着く色調に変えて改装終えた店内