題詠100首選歌集(その6)

           選歌集・その6


001:呼(75〜99)
(コバライチ*キコ)「もういいかい」幼き我を呼ぶ声が私のこゑにすり替わる闇
(笹木真優子)君が呼ぶためだけにつけられた名前 だから今では忘れた名前
002:急(65〜89)
(葵の助)子は急に熱を出すから永遠に無理かもしれない友とのランチ
003:要(61〜85) なし
004:栄(62〜86)
(五百助)午後三時ひっそり閑(かん)の商店街を栄えた残滓のノラの横切る
029:尺(1〜29)
(西藤定)また呼んでくれ図工室で曲尺を振り回してたころのあだ名で
(紫苑)いまもつて尺貫法に町歩とふことのはに思(も)ふ田の面(も)のみどり
030:物(1〜27)
(しま・しましま)物語中盤あたりで死んでゆく人を思へば月のかたむく
(西藤定)春風がろ過されてゆくまどの下に開きっぱなしの植物図鑑
(辺波悠詠)安物の菓子を包んだ銀紙を畳みながら聞くガールズトーク
(みちくさ)いくつものページの中に挿まれた人それぞれの花物語
031:認(1〜25) なし
032:昏(1〜25)
(ひじり純子)黄昏にぐずる子供は恐れてる生まれる前の記憶を持って
(しま・しましま)黄昏のくらさは耳のうしろから広がつてくる 早くおかへり
(美穂)流れくる「黄昏のビギン」今夜から誰にも見せぬ日記の始まり
(スコヲプ)さよならもまたねも違う気がしてて黄昏時にすこしまかせる
038:読(1〜25)
(天野うずめ)この恋が終わってしまう予感する君のメールを読んでしまえば
(尾崎弘子)ふるさとの小径歩みし日もはるか月読の碑の由来思ひて
(美穂)「私にも読み聞かせしてくれた?」と問う子に「もちろん」と言うしかなくて
(西藤定)あとがきを丁寧に読むきみのためちょっと苦めに紅茶を淹れる
(紫苑)くさぐさに取り巻かれつつ読みさしの本を開けば真夜とはなりぬ
042:特(1〜26)
(志稲祐子)ぼんやりと風に吹かれて2番線特別快速通過していく
(しま・しましま)特別な手紙に貼ると集めゐし切手のどれも二円足らない
(紫苑)ぼんやりとホームの隅に立つわれを叩(はた)くがごとく特急の過ぐ
(はこべ)秘色なる青磁カップ取り出して飲むコーヒーは特別な冬