題詠100首選歌集(その7)

 このところ、選歌の在庫がさっぱり貯まらない。25首貯まった題が10題揃ったところで、選歌集をまとめているのだが、前回の選歌集から40日経って、ようやく今回の選歌集になった。ペースが一定とは限らないが、もう少し投稿のペースが上がって欲しいものだと思う。勝手に無責任な選歌を始めた私の勝手な感想には相違ないが、この催しのためにもそうなって欲しいものだと思う。


         選歌集・その7

016:荒(37〜61)
(梅田啓子)荒荒しい愛はいらない ゆうぐれの町にあかりがぽつぽつ灯る
(原田 町)荒物屋金物瀬戸物それぞれを商う店あり昭和の街は
(短歌はじめます、さざなみ)街路樹は大きくしなり荒れ狂うひとり夜更けの苦き珈琲
(五百助)新緑の草原よりも砂けぶる荒野欲しがる十五の心
佐藤紀子)エリオットの「荒地」を読みてライラックの花まで暗く見えし若き日
018:救(36〜60)
(五十嵐きよみ)古書店の外に置かれた「100円」の箱から三島を救い出したり
(原田 町)救世軍社会鍋という歳末の銀座の景も久しくなりぬ
(五百助) 救える人救えない人で満たされた病棟の窓にそれぞれの朝
033:逸(1〜25)
(山階基)この部屋を逸れた西陽がビル群をしばらくかけて焼いていくのだ
(美穂)幻の逸品ときにはおり込んで成り立つテレビの鑑定ものは
034:前(1〜25)
(千原こはぎ)すきになる前か後かはわからない伸ばされた手に目を閉じていた
(西藤定)三月をうつむきがちな僕の上かけぬけていく桜前線
(みちくさ)前線が通過して行く列島を縁取る黄色菜の花の海
(はぼき)気がつけば食事の前にまず薬他人事だと思ってたのに
035:液(1〜25)
(ますだたつろう) なんでまたお昼ごはんのおにぎりと一緒に液体石けん買うの?
(はぼき)今日もまた目薬をさす一滴の液体がもつ薬効信じて
036:バス(1〜25)
(千原こはぎ)バス停に春は舞い込みうつむいた頬に貼りつく淡い後悔
(ひじり純子)バスタブに揺れてる月を手で掬い月の香りを確かめている
(小春まりか)高速バスに乗る5時間の今だけはただ純粋なひとりの乙女
(西藤定)バス停を蹴りつけるほどの寂しさにコートの裾ははためいている
(紫苑)いちにちを交はすことばのなきままにバスタブへ身を沈めてをりぬ
(みちくさ)バス停の空き缶の中飾られたタンポポいっぽん揺れるひだまり
(はこべ)バス停に古き椅子あり腰掛けた老人の笑顔猫のいねむり
037:療(1〜25)
(ひじり純子)依然として建物だけは其処にある「診療時間」のペンキは剥げて
(天野うずめ)『マンガでわかる心療内科』を読んでいる友に彼女ができたそうです
(美穂)さまざまな心模様をつくる世の心療内科にアロマの香り
(紫苑)沈黙もげにあたたかし背をたどりゆく治療師のおほき手のひら
039:せっかく(1〜25)
(千原こはぎ)せっかくのお昼休みが消えてゆく沈黙だけが這う通話口
(ひじり純子)「せっかく」という言葉を飲み込んで頼まれもせぬ善意を仕舞う
040:清(1〜25)
(ひじり純子)清の字を名前の中に持つ父は我が家に帰ることはなかった
(しま・しましま)清潔なガラスのむかふ清潔なあかんぼみんな等間隔に
(遥)清らかな海も大地も帰らない「帰還宣言」虚しく響く
041:扇(1〜25)
(横雲)絵団扇の風の涼しい夏の宵愛の形を様々に見る
(志稲祐子)週刊誌の扇情的な見出しにも疲れてしまう帰りの電車
(しま・しましま)マジシャンの扇で散らした紙吹雪挟まつてゐる青いスニーカー
(美穂)行列に並べば斜め後ろより扇子の風の届く真夏日